2016年間ベストアルバム20選
昨日に続いて年末の恒例企画、アルバム編です。こちらもきちんと手間をかけたキュレーションとなっております。よろしくお願いします。
20. 9mm Parabellum Bullet「Waltz on Life Line」
自分にとって、アルバム単位ではなかなか決定打を生み出してくれずに歯がゆい思いをしていた 9mm 。それでも新譜が出るたびにチェックし続けてきたのは、奥底に光るものを頭のどこかで感じ取っていたから。そんな彼らが今作でようやく殻を破ってくれた。ここにきて滝善充の腕の不調は残念ですが、彼らの前途はまだまだ明るいはず。
9mm Parabellum Bullet - 生命のワルツ - YouTube
19. Dizzy Mizz Lizzy「Forward in Reverse」
90年代の彼らをリアルタイムでは追っていないので他のファンより思い入れは乏しいかと思いますが、それでもこの復活作には痺れさせられた。オルタナ成分を加味したハードロックの旨味渋味、スリーピースのシンプルさを引き立たせながら緩急自在の展開でガッと惹き込むアンサンブルの魅力よ。これこそ大文字のロックアルバム。
Dizzy Mizz Lizzy - Love At Second Sight - YouTube
18. CICADA「formula」
城戸あき子というシンガーに出会えたのは今年の幸運のひとつでした。最近の国内インディーズシーンでも少しずつ盛り上がりを見せるオルタナティブ R&B の潮流、その中でも彼女らは敷居を上げ過ぎない明朗なポップネスで、クールかつ輝かしい存在感を発揮しています。海外からの影響に沿いすぎない、これが彼女らなりの手法(formula)ということでしょう。
17. agraph「the shader」
電気グルーヴや LAMA への参加でしか牛尾憲輔を知らなかったので、このソロ作品には本当に驚かされました。極めて理知的でシリアス、無機質な中にも確かに深いエモーションを感じさせ、現代のエレクトロニカの最先端とも共振する、何とも強い意志に貫かれた音楽。ジャンルが何であろうと、深くまで追及を重ねた音楽には美しさが宿るのですね。
agraph - greyscale (video edit) - YouTube
16. Deftones「Gore」
今年の KNOTFEST でようやく彼らのライブを見れたのですが、やはりその音は他とは全く一線を画していました。まるで軟体動物のように怪しく、艶めかしく、それでいてしっかりと引き締まった質量を感じさせる独自のへヴィネス。この新作にはそれが最新のブラッシュアップを受けた形で余すことなく披露されています。流石の貫禄。
Deftones - Prayers/Triangles (Official Music Video) - YouTube
15. TAMTAM「NEWPOESY」
力入りまくりだった前作とは対照的な緩やかさ、風通しの良さ。それが結果的に彼らの本質を浮かび上がらせた傑作です。特に「星雲ヒッチハイク」の果てしない遠くを眺めるような感傷、「自転車ジェット」の牧歌的でピースフルな鮮やかさには思わず涙腺が緩んでしまう。レゲエというジャンルの自由さを改めて認識させられました。
TAMTAM - アンブレラ (Lyric Video) - YouTube
14. 人間椅子「怪談 そして死とエロス」
もう結成から30年近くが経とうとしているのに、この新作が紛うことなきキャリアハイなのである。彼らは常に自らの足元を慎重に確認しながら、自分たちだけの音を頑なに追求してきた、その成果がここにはっきりと表れています。とは言ってもこの道は果てがないので、この作品を越えてまだまだ彼らは深化し続けてくれることでしょう。
Ningen Isu / Great king of terror (人間椅子 / 恐怖の大王) - YouTube
13. Savages「Adore Life」
前作のジャケットには彼女らのアティテュードを示す声明文が載せられていました。今作は対照的に、この無骨な拳ひとつ。どちらもパンクバンドのスタイルとしては圧倒的に正しい。彼女らを Joy Division や Siouxie and the Banshees と比較するのもいいけれど、そのダークネスの内に潜む熱さは間違いなく彼女らだけのもの。
12. Galileo Galilei「Sea and The Darkness」
サウンドには童話のような穏やかさ、丸みを帯びたムードが流れながらも、その中で描かれるのは表情の裏側にある遣る瀬無さ、不条理に対する不安や葛藤。それは彼らが真っ向から真摯に「人間」と向き合い、自らの表現をより深めていくための痛みを伴う変化でした。Galileo Galilei の終焉は決して悲観的なものではなく、これから起こり得る大きな嵐の前兆だと信じています。
Galileo Galilei 『恋の寿命』 - YouTube
11. DEZERT「最高の食卓」
今年一番の問題児だった DEZERT 。そのムラっ気の強さでファンやメンバーを自由気ままに振り回すヴォーカル千秋の存在感が目立っていましたが、単に傾いてるだけではなく音楽でも異端っぷりを強く発揮していました。蜉蝣や初期バロック、あるいは2000年前後の地下室系を彷彿とさせるアングラ感がありつつ、その奥底にあるのは実は痛烈なほどにエモーショナルな叫び。
「君の子宮を触る」MV / DEZERT - YouTube
10. DOOM「Still Can't The Dead」
DEZERT が問題児なら、こちらは今年一番の極道。DOOM の名に相応しい禍々しさ、執拗なまでに反復を重ねた曲構成から浮かび上がるカタルシス、切れ味鋭くもネットリ絡みつくへヴィグルーヴ。過去の名作でも見せていた独自のプログレッシブ・スラッシュが最新のアップデートを果たし、確実に他にはないオリジナリティを改めて誇示しています。思わず笑ってしまうほどのえげつなさ。今年は強いオッサンが多いな。
DOOM/Still Can’t The Dead 【Music Video】 - YouTube
9. STUTS「Pushin'」
音ゲーよろしく MPC をフル活用で連打しまくり、それが無闇なテクニックのお披露目ではなく、ラグジュアリーで多国籍感のある濃厚なダンストラックに昇華。インスト曲では STUTS 本人の魅力を端的に表しているし、適材適所に配置されたゲストラッパー陣はアルバム全体の流れをよりダイナミックに、劇的なものに仕立ててる。ヒップホップの持つ多様性、自由さをストレートに伝えてくれます。ラスト2曲は涙なしには聴けない。
STUTS - Furious feat. Campanella & KID FRESINO (Official Music Video) - YouTube
8. Mitski「Puberty 2」
麗しく、荒々しく、淑やかに、エモーショナルに。ひとりの人間の感情は決して一辺倒なものではなく、これほどまで表情豊かで大きなうねりの波があり、潔癖ではいられないが故の美しさに満ちています。そこに国籍や性別といったファクターまで絡んでくれば、人間というのはなんてややこしい思想の持ち主なんだろうかと。表題は「思春期」ですが、きっと年齢を問わず幅広い支持を得られるであろう、プリミティブな情感に満ちた歌ばかり。
Mitski - Happy (Official Video) - YouTube
7. Moe and ghosts × 空間現代「RAP PHENOMENON」
この2組それぞれの単独作を聴いたことがなくても、このコラボレーションがいかに凄まじいことになっているかは、実際に聴くと手に取れるのではないかと思います。極めて理知的、数学的に計算された変拍子盛り沢山のポストパンク、その演奏の上を悠々と軽やかにステップするような Moe のラップスキルの異様さよ。ロックとしてもヒップホップとしても完全にオルタナティブと化した、その様は正しく怪奇現象。
Moe and ghosts × 空間現代(Kukangendai) - "不通" from "RAP PHENOMENON" - YouTube
6. 宇多田ヒカル「Fantôme」
「道」はポジティブな新鮮さを感じさせるものでしたが、その後の楽曲は軽やかだったり深く沈んだ雰囲気だったり、トラックが変わるごとに歌詞の心象は波のように移り変わる。それらはシングルコレクションのような寄せ集めというより、曲どうしが手を取り合った時に現在の彼女の全体像がぼんやりと浮かび上がる、ような気がします。光ばかりでも影ばかりでもない、その中間の灰色の情景。そこに彼女の表現の本質が潜んでるはず。
5. 岡村靖幸「幸福」
幸福とは何なのか。「ラブメッセージ」で描かれるような青年14歳の淡いときめきなのか。ジャケットに象徴される家族の団欒なのか。その幸福という名の幻想が我々を苦しませる。幾重にも曲がりくねった旅路の途中で行き先を惑わせる。岡村ちゃんは狂おしいほどに幸福のイメージを歌い続ける。それは彼の中に未だ埋まることのない渇望があるから。歌いたいことが他にないからだろとか言わない。幸福な人も不幸な人も聴けばいいと思うよ。
岡村靖幸 w 小出祐介「愛はおしゃれじゃない」 - YouTube
4. Radiohead「A Moon Shaped Pool」
まあ何しろ、大きな口をパックリと開けた化物のような音なのである。ロックに留まらず様々な音楽要素がひとつの波の中にドロリと溶け合い、おどろどろしくも綺麗な曼荼羅模様を浮かべ、意識の一切を洗い流していく。そこには陶酔があり、警鐘があり、包み込むような優しさがあり、背筋を凍らせる悍ましさがある。星の数ほどあるロックバンドの中でも、彼らは見ている景色が他と全く違っている、その異端っぷりを改めて実感しました。
Radiohead - Burn The Witch - YouTube
3. David Bowie「Blackstar」
もはや Bowie の死から決して切り離すことの出来なくなった作品。と言うより実際の内容を聴くと、Bowie 自身も自らの死を受け止めた上でこの作品を作ったのだと思います。「死」を恐怖や絶望で一面的に塗り潰したものではなく、幻想的で甘美なムードを漂わせ、それでいてダークな緊張感を損なわずに描いた、彼にしか成し得ないポップアート。これは死の世界に耽溺していただけではきっと作れない、デビューからこれまでの間に生命力に満ち溢れたクリエイティヴィティを発揮していたからこその説得力でしょう。
David Bowie - Lazarus (Official Video) - YouTube
2. きのこ帝国「愛のゆくえ」
形は様々なものがあれど、全ての楽曲が「愛」について歌われた、言わばひとつのコンセプトアルバム。時には甘美であり、時には切実であり、時には寂寥に胸を締め付けられる。ラブソングと言うとどうも陳腐で俗っぽい印象があって好きじゃない。けれど彼女らはその使い古されたテーマに対してこの上なく切実に向き合い、結果サウンドにも歌詞世界にも一切の迷いは無くなりました。これまでの音楽面における様々な試行錯誤を経て、ここにきのこ帝国の表現の本質が純度高く結晶化しています。この作品をまた肥料として、彼女らはまた更なる枝葉を伸ばし続けてくれるでしょう。
1. AL「心の中の色紙」
今年は結局、上半期と同じくこの作品が1位でした。アヴァンギャルドな革新性も良いけれど、最終的には自分はメロディと歌詞から逃れられない人間なのかという、そこにある種の諦めのような気持ちもあったりなかったり。ともかく彼らの曲には胸を打たれっぱなしでした。まだ若いながらも栄光と苦悩と挫折を味わい、それでもなお未来に歩を進めようとする、端々から彼らの血の暖かみ、実直だからこそのリアリティが感じられるエモーショナルな歌の数々。決して andymori の焼き直しではなく、過去があったからこその現在があるという、その存在意義がこの作品には深く刻み付けられています。表現が私的になればなるほど、その表現は強度を増し、逆説的に多くの人々の心へとリンクする、その見本のようなアルバムだと思います。
AL / あのウミネコ [MUSIC VIDEO] - YouTube
以上で今年の更新は終了です。お付き合い下さった方々へ深い感謝を。