くるり「琥珀色の街、上海蟹の朝」

1年9ヶ月ぶりのリリースとなるミニアルバム。


坩堝の電圧」や「THE PIER」といった近作、そしてこの作品においても、くるりの音楽的なフリーフォームっぷりは今なお際立っているように思います。表題曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」は久しぶりのヒップホップ、そこにラウンジ風の軽やかな感触と、フリーキーな音響面の遊び心もあり。「Hello Radio」はトラディショナルなサイケ/フォークロック、「かんがえがあるカンガルー」はみんなのうた、「Radio Wave Rock」はヤケクソ気味なもっさりブルーズ…といった具合に、楽曲ごとに様々な趣向を凝らし、ミニアルバムながら十分な密度の濃さ。ただ初期のくるりにあったサブカル大学生ノリの捻くれセンス、あるいはロックの枠組みを拡張せんとする実験性への拘り、そういった肩肘張った姿勢はここにはありません。あるのは雑多なジャンルをすっかり咀嚼して飲み込んだ後の器用な手つき。実験性を踏まえつつも純粋にグッドソングを書くというシンプルな難題に取り組み、それを飄々と達成してしまう、言わば紆余曲折を経てきたベテランならではの余裕というやつです。なんだか悔しいけれど舌を巻かずにはいられない。

Rating: 7.9/10



くるり - NOW AND THEN DISC vol.2 トレーラー

Bat for Lashes「The Bride」

BRIDE

BRIDE

英ブライトン出身、 Natasha Khan によるソロユニットの約4年ぶり4作目。


情報によると今作には明確なコンセプトがあって、それは「結婚式の前にフィアンセが死んでしまい、独りでハネムーンに出る花嫁」を主人公としたストーリーとのこと。30過ぎの独身男には色んな意味でつらくなる話ですネー。穏やかな幸せを描く牧歌的なパートから次第にダークな曲調へと移行し、やがて深遠でミステリアスなムードを色濃くしていくという、まるでひとつの映画を見ているような内容。その中で綴られているのは、穏やかながら時には痛ましいほどの切実さを見せる愛の希求。Natasha Khan の歌声には相変わらずシャーマニックな聖性が宿っており、感情を必要以上に露わにすることなく、メロディの美しさを上品に保ったまま、深い悲哀の情感を繊細に表現しています。ただサウンド的にはバンドサウンドやエレクトロニクスを交えつつも、必要最小限とも言えるくらいシンプルな音数で、過去の作品と比べると随分と素っ気なく感じられる。緩急がグッと抑制された流れはトータリティを重視してのことでしょうか。その味を楽しむにはなかなか辛抱強く噛み締める必要があるかと思いますが、それでも鈍い光の美しさは確かに潜んでます。

Rating: 7.0/10



Bat For Lashes - In God's House (Official Video)