Stormzy「Gang Signs & Prayer」

Gang Signs & Prayer

Gang Signs & Prayer

ロンドン出身のラッパーによる初フルレンス。


グライム新世代という前知識を得ていたのですが、このデビュー作では彼の内にある多面的な要素を余すことなく開示した内容になっています。スタイリッシュな疾走感と浮遊感のある「Big for Your Boots」「Shut Up」といったグライム曲をハイライトに据えつつ、US シーンを意識したであろうトラップナンバー「First Things First」「Bad Boys」で一層ドープな緊張感を醸し出し、その一方で「Blinded by Your Grace」では暖かい包容力のあるゴスペル、「Cigarettes & Cush」ではスウィートな R&B ポップといった具合に、剛柔を巧みに切り替えて作品全体にダイナミックな起伏をつけた構成。もちろん歌詞の内容もそれに準じ、アングラで攻撃的なものから心の弱さを曝け出すようなものまで様々。ちょうどアルバム表題にも示されている二面性が分かりやすく展開されています。Stormzy 本人も時にはリラックスした歌唱を披露したりと、決してひとつのジャンル、ひとつのスタイルに囚われないワイドな視野をアピール。そこにはポップスターとして最前線を突っ走ろうという気概がありありと浮かんで見える。実際すでに本作は全英1位を獲得しており、ドンズバ狙い通り。

Rating: 8.3/10



STORMZY [@STORMZY1] - BIG FOR YOUR BOOTS

Crystal Fairy「Crystal Fairy」

Crystal Fairy

Crystal Fairy

2015年結成の4人組による初フルレンス。


At the Drive-InOmar Rodriguez-López 、Melvins の Buzz Osborne と Dale Crover、そして Le Butcherettes から Teri Gender Bender といった豪傑揃いのスーパーグループ。しかしながらここで展開されているのは、各人の経歴を考えれば驚くほどストレートなグランジオルタナティブ・ロックンロールです。力強くヘヴィなギターリフに荒々しい躍動感、そしてしなやかさと刺々しさを同時に感じさせる Teri の挑発的なヴォーカル。「Under Trouble」や「Sweet Self」なんかのミディアム/スロウ曲では仄かにゴシック風味の艶めかしい雰囲気も匂わせるなど、例えば Hole や Daisy Chainsaw などにそのまま直結する、90年代初期~中期の古き良きグランジポップ復権を目指した内容。ある意味迷いがなくて非常に潔い。とは言いつつも決して特定の世代の思い出迷子族のみをターゲットに絞っているわけではなく、ロックンロール本来の旨味が凝縮された演奏には老若男女問わずに聴衆をノックアウトする魅力があると思うし、小難しいことはほとんどしていないにも関わらずメンバーの個性が音の端々に滲み出ている気もする。シンプルでタフ、実に痛快な一枚。

Rating: 7.9/10



Crystal Fairy "Chiseler"