cali≠gari 「3」「4」

3 [良心盤] ※正確表記は「3」反転表記

3 [良心盤] ※正確表記は「3」反転表記

約5年ぶりとなる過去曲のセルフカヴァー3作目。


こちらは過去に桜井青がヴォーカルを担当していた楽曲を石井秀仁ヴォーカルで再録音というコンセプト。そもそも桜井青が書いた曲は私小説的な要素が強いものが多く、それが最近になるにつれてよりストレートでエモーショナルな作風に変化していき、それを飄々としたキャラクターの石井秀仁に歌わせるとなるとモノによっては相当な違和感が生じるため、桜井青が歌った方が収まりが良いという事情がありました。しかし活動停止~復活を経てお互いに抵抗もなくなったきたのか、「恋愛中毒」のようなド直球のラブソングでも普通に石井が歌うようになり、バンド内の創作における関係性は昔に比べて随分と変化したと思います。その変化の象徴とも言えるのがこのミニアルバム。「13」のダークかつジャンクな雰囲気を継承した「破れた電報」、アッパーなアシッドテクノと化した「コバルト」、透明感ある80年代シンセポップ歌謡風の「君と僕」は大胆な改変ですっかり石井色に染まっており、比較的原曲に近い「新宿ヱレキテル」「空も笑ってる」「腐った魚」にしても、今回のリメイクでようやく完成形になったという印象があり、予想以上の感慨深さが。

Rating: 7.8/10


4 [良心盤] ※正確表記は「4」反転表記

4 [良心盤] ※正確表記は「4」反転表記

上記「3」と同時発売のセルフカヴァー4作目。


こちらのコンセプトはズバリ「ジャズ」。それもジャズ要素を取り入れるというレベルではなく、林正樹、吉田明広というその筋のピアニストにアレンジを外注した完全ジャズアルバムです。これもまた大胆なアイディアではあるのですが、カリガリの過去の曲を見返しても古くは「僕は子宮」や「ゼリー」、また最近の「12」「13」収録曲においても、カリガリの音楽性の中でジャズというのは再々取り入れられている重要なファクターのひとつであるのは確かなので、驚きはしつつも納得ではあります。ただ「誘蛾燈」「わずらい」はまだ分かるけど、他の3曲に関してはジャズ感全くないのにどうしてそれを選んだ…という思いがあったのですが、これが完膚なきまでにジャズと化していて思わず笑ってしまった。原曲のメロディやギターフレーズが洒脱なスウィングにこれほどハマるとは思わなかった「さよなら、スターダスト」、ただでさえ遠かった猟奇的な歌詞と曲調の距離感がさらに増した「君が咲く山」、アーバンを通り越してドリーミーな心地良さすらある「月光ドライブ」と、いずれもジャズマンの力量をこれでもかと見せつけられた、感服の5曲。

Rating: 7.9/10

hide 「HIDE YOUR FACE」「PSYENCE」「Ja, Zoo」

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1998年5月2日に hide がこの世を去り、早いもので今年で20年が経ちます。現在においても彼の生前の映像を使ったライブや過去音源の再発など、hide 関連のニュースが目に入るたびに自分などはどうも複雑な心境になるのですが、それだけ彼の残した功績、また彼の持っていたカリスマ性が強烈なものであったということだし、それは時間が経つにつれて消失するどころか、再評価を受けてシーンの中で一層存在感を増しているように思います。

自分が物心ついた頃には X JAPAN はすでに解散を決定しており、その後間髪入れずに始まったソロ活動で hide という存在を強く意識するようになったのですが、急速に惹かれていったその直後に彼は急逝。なので自分の中で hide は遠い歴史上の人物でも身近な親しみを覚えたアイドルでもない、何だか束の間の幻を見ていたような不思議な距離感が今に至るまでずっと続いています。あれから20年が経ち、自分は hide の年齢を追い越してしまいました。しかし写真の中の hide は何故だか今でも年上に見える。もし彼が今も生きていたら全くろくでもないオッサンになっていただろうなと思います。今振り返ることでまた新しく見えてくるものがあるかもしれない、ということで久しぶりのカタログ総ざらい企画です。



HIDE YOUR FACE [Analog]

HIDE YOUR FACE [Analog]

1994年2月発表のソロデビュー作。


そもそも hide のソロ曲を初めて聴いたのが「ROCKET DIVE」で、そこから過去へと遡るという形で聴いた今作は、自分が抱いていた彼のイメージを随分と改めさせられるような内容でした。もちろん hide ならではの何処か人を食ったユーモアは通底してはいるものの、全体的に HR/HM 色、それも X 本隊のクラシカルな美しさではない、よりアグレッシブで無骨なインダストリアル・メタルからの影響が強く、随分と初期衝動的というか、がっちり肩肘を張っている印象がある。H.R.ギーガー作の強烈なジャケットと同調するように、辛辣で毒の効いたメッセージ、一言で言うならば内面的な「痛み」が hide 流の器用な手つきで全編に表れています。「DOUBT」や「FROZEN BUG '93」などはもちろん、表層的にはポップな「DICE」や「OBLAAT」などもメタル由来の太い骨格を持った演奏で、やはり重厚さの方が勝っているように感じる。ただそんな中で唯一の希望のように映るのが「TELL ME」。ド派手なルックスからトリックスターと捉えられがちな彼が、繊細な胸の内を曝け出すような楽曲をさらりと歌う、この人間臭さにこそ惹かれるのだという人は多いはず。

Rating: 8.6/10



hide - TELL ME




PSYENCE [Analog]

PSYENCE [Analog]

1996年9月発表の2作目。


前作「HIDE YOUR FACE」においても HR/HM 以外からの影響は見て取れましたが、今作ではそのクロスオーヴァーの手法が一気に箍を外して拡張され、正しく「おもちゃ箱をひっくり返したような」というクリシェを完膚なきまでに体現した、遊び心満載の内容となっています。メタル、オルタナ、サーフ、サイケ、ファンク等々、気付くところを挙げていけばキリがないくらい、箸休め的なインストゥルメンタルに至るまで目まぐるしい勢いで様々なアイディアが投下され、それらが挑発的でいて何処か愛らしい hide というキャラクターの下にガッチリ統合されている様はもはや壮観ですらある。ただその愉快なサウンドに乗る歌詞に目を向けてみると、対を成す「MISERY」と「FLAME」でのナイーブな心象描写や、アッパーなノリの「ERASE」や「Hi-Ho」では何処か自嘲的な含みも見られたり、奇抜なヴィジュアルでおどけるショウマンとしての振る舞いと、松本秀人の素の表情が賑やかなアレンジ同様にグルグルと渦を巻いているようで、そういう意味でも hide という個性、内面が100%に近い純度で表れているのではないかなと思います。楽しく痛い大名盤。

Rating: 10.0/10



hide - MISERY




Ja,Zoo [Analog]

Ja,Zoo [Analog]

1998年11月発表の3作目。


hide が遺した音源データを元に制作されたアルバムということで、この作品をリリースする意義というのは理解はできます。ただ理解はできるけども受け入れるのは厳しいという感じ。インストを頭とケツに用意し、シングルのカップリング用と思われた「DOUBT'97」まで収録というのは、フルレンスの体裁を保つための苦肉の策という印象が当時の自分にはあったのですが、その後に公開されたトラックリストの手記を見ると hide 自身の構想を可能な限り反映した結果ではあるのかなとも思ったり。また本来ならここに「子ギャル」も入るはずだったとのことですが、仮にそれを付け加えたとしても自分にとってこのアルバムは未完成というイメージが強いです。Spread Beaver を結成して真っ当にロックバンドらしいシンプルなダイナミズムを目指し、「自由」をテーマとした「ROCKET DIVE」「ピンクスパイダー」「ever free」のシングル三部作の時点ですでにコンセプチュアルな流れが確定していたため、本来ならこの3曲を軸としてさらに重厚な世界観を見せてくれたのでは…という妄想を膨らませてしまい、聴きながら複雑な心境になるのはやっぱり変わらないのでした。

Rating: 6.7/10



hide with Spread Beaver - ピンク スパイダー