Ty Segall 「Fudge Sandwich」

ファッジ・サンドウィッチ(FUDGE SANDWICH)

ファッジ・サンドウィッチ(FUDGE SANDWICH)

カリフォルニア出身のシンガーソングライターによるカヴァーアルバム。


単独名義のフルレンス、他ミュージシャンとのコラボ作、彼がギターを務めるバンド GØGGS 、また密かにリリースしていた数量限定のカセットテープまで含めると、これが今年5作目。さらには彼の嫁をヴォーカルに据えた新バンドのアルバムも年内に発表予定とのこと。なんぼなんでも出し過ぎやろ。創作意欲がいよいよピーク値を見せつつある中での今作は、パンク、フォーク、ファンク、プログレまで何でもござれの選曲。以前には完全 T.Rex 縛りのカヴァー盤も出していましたが、それとは真逆の広範囲に渡るベクトルで、彼の偏執的とも言える音楽への愛情が目一杯に表れた内容です。シュールかつネチっこい毒気が強烈な War「Low Rider」、ガレージパンクのガソリンを大量に注ぎ込まれた Neil Young「The Loner」、対照的に爆音の中から牧歌的なポップセンスのみが抽出された The Dils「Class War」など、原曲に沿ってみたり大幅な改変を加えたりで、全てが Ty Segall ならではの暖かくも刺々しいローファイ・オルタナサウンドに塗り替え済み。ここまでの奔放な遊び心を見せられると、本当に彼は生粋のロックオタクなんだなと微笑ましさばかりが浮かんできますね。

Rating: 7.4/10



Ty Segall - I'm A Man

豊崎愛生 「AT living」

AT living

AT living

徳島出身の声優シンガーによる、初のカヴァーアルバム。


あなたは豊崎愛生がライブで The BeatlesHey Jude」を弾き語りカヴァーしていたのを見たことがあるだろうか。ないなら今すぐ見てほしいビートルズ曲のカヴァーは自分も何度か耳にしたことはありますが、ここまで破壊力の高いものに他所で出逢えたことは未だかつてありません。その時の衝撃が大きすぎたため、今回の作品に対しても戦々恐々とした心持ちで臨んだのですが、これが意外にも真っ当な聴き心地で安心したやらがっかりしたやら。オールディーズ趣味、アナログレコード愛好家であるところの彼女本人が主導権を取り、古き良き時代のフォーク/歌謡曲、その中でも一般的な最大公約数と成り得る有名曲を主とした選曲。はっぴいえんどRCサクセションでロックファンのツボもきっちり押さえ、渋いところでは高田渡まで。いずれにおいてもこれ見よがしの Kawaiiness は抑え、クセのない澄んだ歌声による、原曲の良さに素直に寄り添った仕上がり。素朴な切なさが沁みる「卒業写真」や「なごり雪」などはもちろん、「タイムマシンにおねがい」「雨上がりの夜空に」のようなロック曲も板についてる感がある。彼女がやることに意義の感じられる一枚。

Rating: 7.1/10