Asher Gamedze 「Dialectic Soul」

DIALECTIC SOUL

DIALECTIC SOUL

  • アーティスト:ASHER GAMEDZE
  • 発売日: 2050/12/31
  • メディア: CD
南アフリカ出身のドラマーによる初フルレンス。


まず "植民地主義への抵抗" というのが今作の大きなテーマとしてあり、"弁証法の魂" なるアルバム表題については "動くことが必要なんだ、我々は動き続けるんだ" という Asher 本人の力強いメッセージが添えられています。決して抑圧に屈することなく、常にアクティブな姿勢を取りながらアウフヘーベンを目指すという意識が今作の基盤を成している…そんな解釈でよろしいでしょうか。1曲目「state of emergence suite」はそういった彼の思想がとりわけ直接的に反映されているであろう、テーゼ/アンチテーゼ/ジンテーゼの三部で構成される約19分の組曲。Asher のドラムは自在にうねりながら小さな破裂を絶えず繰り返し、ベースやサックス、トランペットはその激しいプレイを全く意に介していないかのような奔放さで並走。豊かに広がりながらも一本の緊張の糸で連結する、引力と斥力を同時に発しているような各パートの関係性。これはどの楽曲でも一貫しており、ピースフルな歌声が深く染み入る「siyabulela」、陽気でレイドバックした感触の「hope in azania」にしても、ドラムだけは常に破裂し続けて緊張を煽ってくる。この矛盾、相反の中にこそ道があるわけです。

Rating: 7.8/10



dialectic soul | asher gamedze | a film by sisonke papu

おとぎ話 「REALIZE」

REALIZE

REALIZE

  • アーティスト:おとぎ話
  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: CD
2000年結成の4人組による、1年3ヶ月ぶり10作目。


CD が出たのは今月ですが、配信では去年の9月にはすでにリリースされていましたね(完全にチェックし逃していた)。ただアルバムの内容的にはむしろ今の方がちょうど良いタイミングだったと思います。サウンド面はこれまでのレトロスペクティブなサイケ/フォークロックから大胆に様変わりし、ポストプロダクションに重きを置いたシュールで冷ややかな音像。バンド演奏の体はギリギリ残されてはいるものの、そこはかとなく立ち昇るアンビエント的浮遊感は Frank Ocean 、また ASMR 風のエレクトロニックな音処理は Billie Eilish を思わせるなどで、旧来のスタイルに囚われず現行の最先端を取り込んで行こうという意欲がありありと見て取れます。なおかつ歌詞には何かと厭世、逃避の匂いを醸し出している場面が多く、特に終盤の「GAZE」では "電波の網の中で正義を汚してることに気づいて" 、「NOTICED IT」では "かばい合う輪の中から逃げます/Isolation手に入れろ" と、混迷を極める SNS へのかなり直接的な言及が。ネガティブの連帯から抜け出して、変な色目も削ぎ落として、自分という個を出来る限り純度高く突き詰めた結果がこの音、ということですね。

Rating: 7.3/10



おとぎ話 - BREATH