朝生愛 「The Faintest Hint」

The Faintest Hint

The Faintest Hint

  • 発売日: 2020/07/10
  • メディア: MP3 ダウンロード
オリジナルフルレンスとしては約13年ぶり3作目。


曲を制作する上で音を鳴らすことと同等、あるいはそれ以上に "音を鳴らさないこと" がどれほど重要であるかというのは、何気なしに音楽を聴いていても実感させられる場面が多いのではないかと思いますが、この作品などは特に、無音の部分にこれでもかというほど意識的なフォーカスが当てられています。ゲスト参加の Boris によるドローンサウンドが付与される場面もありますが、基本的には歌声にしても伴奏のギターやシンセにしても、本当に必要最低限のみ、いやその最低限すらも取っ払ってしまっている、それくらいの異様な簡素さ。ただそのぶん、柔らかな曲調であるにも拘らず個々の音が異様にソリッドな質感に研ぎ澄まされ、ほんの少しの音程の変化、ほんの少しの弦の軋みまでもがやけに鮮明な輪郭を持って響いてきます。またそれと同時に、音の背後に限りなく広がっている無音の空間が、聴き手をここではない別の場所に引き摺り込む引力、ブラックホールにも似た確かな質量を伴って眼前に迫ってくる。素朴に徹したフォークソングというよりも、ヘヴィミュージックをとことんまで突き詰め、臨界点を突破した末に辿り着いた最果てのような。

Rating: 7.0/10



Ai Aso - Scene [Audio]

坂本真綾 「シングルコレクション+ アチコチ」

シングルコレクション+ アチコチ

シングルコレクション+ アチコチ

  • アーティスト:坂本真綾
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: CD
シングルコレクションとしては7年8ヶ月ぶり4作目。


昨年にサブスク配信を一斉解禁し、全ての楽曲が気軽に聴けてプレイリストの作成も容易となった今、それでもこの手の編集盤をリリースする意図とは果たして…という疑問はありましたが、一枚の盤に時系列で既発曲を並べていくことによって、改めて見えてくるものも確かにあります。彼女のシングルコレクションシリーズでは毎度のことではありますが、曲調は笑ってしまうほど幅広く、散漫と言っても過言ではないくらい。ただこれまでと違うことは、与えられた課題をこなすことでいっぱいいっぱいに見えた「ハチポチ」、ブレイクスルー真っ只中の力が漲っていた「ニコパチ」、そして菅野よう子の手を離れて新たなスタイルを模索していた「ミツバチ」を経て、今作は相変わらず雑多な楽曲群であっても、大きな羽を手に入れて悠々と空を飛び回るような、確かな安定感、余裕がどの曲にも備わっています。夏フェス出演を契機に始まった疾走 J-ROCK 路線から、小山田圭吾×坂本慎太郎コンビと組んだ理知的なエレクトロポップまで、それらは試行錯誤真っ只中の迷いではなく、アチコチ何処でも行けますよという自信の表れ。そんな風に変化した7年8ヶ月だったと。

Rating: 7.6/10



坂本真綾 - 『シングルコレクション+ アチコチ』特典Blu-rayダイジェスト映像