椎名林檎 「無罪モラトリアム」 「勝訴ストリップ」 「唄ひ手冥利 〜其ノ壱〜」 「加爾基 精液 栗ノ花」


ソロ名義の旧譜をまとめて聴き返してみました。長くなるので畳みます。



無罪モラトリアム

無罪モラトリアム

まず記念すべき1作目。


林檎さんの格好良さが素直に出た、一番シンプルな作品ですね。もちろんシンプルとは言っても演奏はオルタナティブで刺々しかったり、独特の表現による歌詞、ポップさと濃ゆさを併せ持ったメロディはこの頃から十分すぎるほど個性的だったわけですが、現在ほどギミックに満ちているわけじゃなく、比較的純粋なバンドサウンドで攻めにきてる。ヒステリックでパンキッシュな 「幸福論 (悦楽編)」 やオルタナポップ 「警告」 は単純に格好良いし、風通しの良いピアニカの音色が印象的な 「丸の内サディスティック」 、ピアノがしっとりと鳴り響く 「茜さす 帰路照らされど…」 なんかはそのメロディの良さがストレートに沁みてきます。所々でソウル/ R&B 的な歌い回しも聴けますけど、当時の林檎さんってその辺の影響が強かったんでしょうか。凄く伸びやかで堂々としたヴォーカルが前に出てて、正しく歌モノポップスをやってるという感じ。今では物足りない部分もなくはないですが、それでもその魅力はまだまだ色褪せてないはずです。


Rating: 7.6/10



勝訴ストリップ

勝訴ストリップ

200万枚以上のセールスを記録した2作目。俺が初めて聴いた林檎さん。


メロディや歌詞、アレンジなど、前作から様々な面においてヴァージョンアップが施されてます。荒々しいオルタナサウンドはさらに切れ味を増し、感情的なリアリティに溢れた歌詞と相まって鋭く突き刺さってくるのに加え、 「浴室」 の4つ打ちテクノや 「闇に降る雨」 の重厚なストリングス、曲と曲の絶妙な繋ぎ方といった様々なアイディアが随所で光ってる。どれもここぞという場面で凄く効果的に使われててまるでハズしが見当たらない。もちろんそういったギミックだけに頼らず、 「ギブス」 「依存症」 での感動的な盛り上がりを見せるメロディや、 「アイデンティティ」 「病床パブリック」 のアグレッションは即効性バツグンでガツンとくる。ちょっと信者くさいですけど、この時期の林檎さんの勢いは神懸かり的だったと思います。どの曲も凄くパワーに溢れてて、今聴いても十分説得力を感じさせる。みんなが認める大名盤ですね。初回盤の特殊ジャケも素敵。


Rating: 10.0/10



唄ひ手冥利~其の壱~

唄ひ手冥利~其の壱~

産休を経て、復活後初の音源となる2枚組カヴァーアルバム。


まず亀田誠治プロデュースの 「亀pact disc」 はバンドサウンドがメインのオルタナ歌謡スタイル。物悲しい哀愁や深い情念を感じさせる 「灰色の鐘」 「小さな木の実」 、ソウルフルなヴォーカルとコクのあるロックな演奏がマッチした 「白い小鳩」 、ほんわか暖かくて切ない 「木綿のハンカチーフ」 など、即効性の高い格好良さが前面に出てます。それに対し森俊之プロデュースの 「森pact disc」 は打ち込みやキーボードが中心。アンビエントな雰囲気とノイズで包み込む 「君を愛す」 を筆頭に、実験性の高いエレクトロサウンドを全般に導入しててサウンド志向が強い。さらにはジャズやシャンソンの要素も取り入れて、アダルトな落ち着きのある側面も見せてたり。そんな作風の中で宇多田ヒカルとのデュエットナンバー 「i won't last a day without you」 は高質なメロディの暖かさが一際輝いて聞こえます。いわば 「亀」 は従来の魅力を打ち出し、 「森」 はこの先を予感させる内容ですね。童謡やら昭和歌謡やらジャニス・イアンやらビートルズやらと幅広い選曲も含めて、興味深い作品。


Rating: 8.2/10



加爾基 精液 栗ノ花 (CCCD)

加爾基 精液 栗ノ花 (CCCD)

オリジナルとしては実に3年ぶりとなる3作目。


「無罪」 → 「勝訴」 の変わり方も結構なものでしたけど、それ以上に劇的な変化を遂げています。様々な管弦楽器やマイナーな民族楽器、エレクトロニカ、バンドサウンドなどを巧みに融合させた凄まじく濃密なアレンジ、旧仮名遣いを多用した独特の歌詞、とことんシンメトリーに拘った装丁、それらが一体となって、まさに一つの確固たる世界を作り上げてます。しかも全体的にえらく不穏というか、不安定なダークさが通底してるんですね。煌びやかだけど毒々しい、優しいけど狂ってる、的な。特に 「宗教」 と 「葬列」 、この2曲がインパクト強すぎ。曲名といい、カオティックに渦巻く音といい、 「葬列」 では歌詞が直接的に堕胎を思わせたりと、強烈に狂気を感じさせる。その変貌っぷりに当時激しく賛否両論だったと記憶してますが、俺は賛成派でした。実験精神溢れる音の中にも林檎さんらしいポップさは確かに存在してるので、それらが合わさるとやはり強く引き込まれてしまう。決して独り善がりにならないギリギリの所を突いてると思います。以前とは別の刺激がある。


Rating: 8.0/10


Links: 【公式】 【公式(東芝EMI)】 【試聴(リッスンジャパン)】 【Wikipedia