松永天馬 「松永天馬」

松永天馬 (通常盤)

松永天馬 (通常盤)

アーバンギャルドのヴォーカリストによる初のソロ作。


「いま、もっとも気持ち悪い男」を標榜する松永天馬。なるほど狂気的だったり過激な思想の持ち主なら他にも沢山いるだろうけど、気持ち悪いとなると彼の右に出る人間はそうそういないかもしれません。遡ること6、7年前、自分が初めてアーバンギャルドのライブを見た時から彼はすでに気持ち悪かった。それから彼は自分の個性を一切曲げることなく、むしろ病状を悪化させながら今回のデビュー作を完成させています。詩のボクシングにおける数度の優勝経験が存分に活かされたであろう、彼の内にある愛憎、リビドーが不穏なトラックの中で迸ったポエトリーリーディング「キスマーク/唇」「ハートマーク/心臓」。メロディやコードワークの洒脱さ、ファンキーなリズムとギトギトに濃厚な歌詞の対比が岡村靖幸を連想させる「Blood, Semen, and Death.」「ラブハラスメント」。そしてハイポジ「身体と歌だけの関係」カヴァーは原曲のミステリアスなムードが4つ打ちの導入によってより一層背徳的、かつ刹那的な情熱へと転化されており、綺麗に彼の世界観の1ピースとなっています。身も蓋もないほどに生々しく痛々しい天馬ワールド7曲26分。

Rating: 7.8/10



松永天馬 - ラブハラスメント TEMMA MATSUNAGA - LOVE HARASSMENT

Arcade Fire 「Everything Now」

EVERYTHING NOW

EVERYTHING NOW

3年9ヶ月ぶりとなる5作目。


目下賛否の割れまくっている本作、確かに Arcade Fire としては少々複雑な内容かもしれません。Thomas Bangalter(Daft Punk)を筆頭に多数のプロデューサーが名を連ね、完成したのは前作「Reflektor」でのファンク/ディスコ路線を引き継ぎ、よりライトで取っつきやすい方向に歩を進めた、彼らのカタログの中では最もポップな手触り。相変わらずの壮大でアンセミックな力強さを感じさせる表題曲「Everything Now」、シンセのニューウェーブ感が強められた中で自殺についての歌詞が朗々と歌われる「Creature Comfort」、また中盤ではダブ/レゲエの「Peter Pan」「Chemistry」からパンキッシュな勢いの「Infinite Content」へ急転するなど、まるでミュージカルのシーンが移り変わるような軽やかさで音楽性がスイッチされる。ただそのいずれもが濃密な質量を誇っていた「Reflektor」と比較すると薄味な感は否めず、これまで常に革新的な世界観を提示していた彼らにしてみると、今作はいささか弱い。ただ昨今のポップ隆盛の潮流に対する彼らなりのアンサーと考えるとそれはそれで面白いし、ライブでは化けそうな予感もあるしで、やはり捉えるのが難しいなこれは。

Rating: 7.5/10



Arcade Fire - Everything Now (Official Video)