Aphex Twin 「Collapse EP」

約2年ぶりのリリースとなるミニアルバム。


10年以上の沈黙が嘘だったかのように、ここ数年は毎年何かしらの形で音源リリースを重ねている Richard D. James 御大。今作は2014年作「Syro」の方向性を引き継ぎつつ、前作「Cheetah EP」では低く抑えられていた BPM が反動のごとく解放され、これぞ Aphex Twin 印と言えるドリルンベースの応酬となっています。本能の赴くままなようで実は緻密な計算の元に構築された(多分)予測不能の複雑な疾走リズムパターンが目白押しなわけですが、「Syro」以降と言える丸みと粘りの強さを併せ持ったビートの質感、そしてスッキリと洗練された立体的な音の配置により、アヴァンギャルドさよりもフィジカルに訴えかける即効性、ポップな印象の方が先立っているように感じます。無機質な空気感の中にローラーコースター的な緊張感を打ち出した「T69 collapse」、そこはかとなくアフロビートの躍動感まで携えたファンクネスが直接的に身体を突き動かす「abundance10edit [2 R8's, FZ20m & a 909]」など、Aphex Twin としての記名性を維持しながら、ここに来てまた何とも伸び伸びとした自由な広がりを見せているのだから、その底なしの創作意欲に脱帽せざるを得ない。

Rating: 7.8/10



Aphex Twin - T69 Collapse

きのこ帝国 「タイム・ラプス」

タイム・ラプス(初回限定盤)

タイム・ラプス(初回限定盤)

2007年結成の4人組による、約2年ぶり5作目。


佐藤千亜妃は最近始めた Twitter で自身のことを「あまのじゃく」と形容していました。他者から何かしらのジャンルにカテゴライズされるのを嫌い、常に自由なスタンスで在ろうとするためにその天邪鬼精神を発揮し、作品を発表するたびに方向性を変化させてきたのだと思います。それは先日のソロ作もそうだし、このバンド本隊の新作もそう。前作「愛のゆくえ」でダブ/レゲエの吸い込まれそうな音響、また R&B の洗練された質感を加えてより深化したアンサンブルとなっていた彼女らですが、ここにあるのはすっかり原点回帰した素朴なオルタナティブロック。細かい所にシューゲイザー由来のエフェクティブな奥行きを加えつつ、メロディと歌詞にはに歌謡フォーク的な情念の色合いも見られるという、ある意味日本人のロックバンドとして非常に真っ当な姿。しかし前作のプロダクションに拘ったが故の凄味がまるっきり無かったことにされたような、このシンプルな軽さというのは果たして今のきのこ帝国がやるべきことなのかという疑問が拭えない。「猫とアレルギー」よりさらに普通の歌モノと化した今作は、変化というより単純にセルアウト、後退なのでは。

Rating: 5.2/10



きのこ帝国-金木犀の夜