宇多田ヒカル 「初恋」

初恋

初恋

1年9ヶ月ぶりとなる7作目。


「First Love」から約20年を経ての「初恋」。まずは表題曲の「初恋」についてですが、35歳になった彼女が歌うここでの初恋とは、若さ故の勢い任せによる刹那的な狂騒、あるいはノスタルジックにぼやけて美化されたものなどではなく、もはや初恋以前と以後では自分の価値観、内面がガラリと変わってしまうくらいの、人生におけるある種の楔であるというような重みをもって歌われています。これほどドラマチックに、切実なエモーションをもって歌われる初恋は聴いたことがなかったかもしれない。アルバム全体的には挑戦的な要素の多かった「Fantôme」から、従来の宇多田ヒカルのスタンダードと言える正統派ポップス路線へと回帰した印象を受けますが、その中にも三連符のフロウを取り入れた「誓い」や、ダブステップ以降と言えるグルーヴ感の「Too Proud」など目新しさもそこかしこにあり、最新型の宇多田ヒカルをきっちりと提示しています。そして終曲「嫉妬されるべき人生」、ここまで歌詞で書き切れてしまう人生への覚悟というのは、正直自分には壮絶すぎて想像がつかない。軽みと重み、暖かさと冷たさがしなやかに折り重なった、さすがの手腕。

Rating: 8.4/10



宇多田ヒカル 『初恋』(Short Version)