小袋成彬 「分離派の夏」

分離派の夏

分離派の夏

1991年生まれのシンガーソングライターによるデビュー作。


楽曲自体はトラップやダブステップを通過し、ともすればアンビエントの領域まで肉薄する静けさを湛えたオルタナティブ R&B 。その影に James Blake や Frank Ocean などからの影響はすぐに透けて見えます。ただそれは時流の波に乗ったというよりも、自らの感情を最も効果的に表現するための手段であるという、ある種の必然性を強く感じます。かつて彼が所属していた N.O.R.K. 時代には流暢な英語詞だったのが、このソロ作では日本語詞、それも言葉がはっきりと汲み取れる、日本語らしい音の響きを大切にした歌詞。いずれの楽曲においても彼の様々な時期の記憶を掘り返したと思しき内容が、まるで私小説のように上品かつ知的なタッチで、しかしその時々に感じた思いや情景を生々しく呼び起こさせるように、内なる激しさをひしひしと感じさせながら描かれる。トラックの研ぎ澄まされたクールさとは裏腹に、自らの内面の細かな部分にまで徹底的にフォーカスした歌からは、極めて泥臭く、何なら R&B を通り越してフォーク的な印象すら受けます。この湿っぽい情感はもしかすると宇多田ヒカルがプロデューサーとして一番引き出したかった部分なのかしらと。

Rating: 8.7/10



小袋成彬 『Selfish』