2017年間ベストアルバム20選

f:id:sikeimusic:20171201230142j:plain

前回に続き、恒例企画のアルバム編です。




20. Mutoid Man 「War Moans」

War Moans

Cave In や Converge などボストンの豪傑たちが集まってよりオーセンティックに寄った HR/HM をとても楽しそうに演奏する課外活動バンド。課外と言いつつ当然本気なので Motörhead ばりの爆走っぷりを見せたり、Marty Friedman ゲスト参加で叙情性に満ちたギターソロが展開されたり、旨味ギッシリのラウドアンサンブルは聴き応えバリバリ。

YouTube




19. 小松未可子 「Blooming Maps」

Blooming Maps(通常盤)

みかこし再スタートとなったこの新譜では Q-MHz が全面的バックアップを務め、UNISON SQUARE GARDEN よろしく情報量を多く詰め込みつつ、何とも清冽とした仕上がりのポップソングのオンパレード。それは彼女の澄んだ声の魅力を十分に引き出したものであり、2017年の J-POP の一断面を象徴するものでもあるように思います。

小松未可子「HEARTRAIL」full ver. from New Album「Blooming Maps」 - YouTube




18. Run the Jewels 「Run the Jewels 3」

Run The Jewels 3 [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 初回特典ステッカー / 国内盤] (TRCP212)

前作「Run the Jwewls 2」ほどのダークで切迫したアグレッションは少しばかり後退しましたが、そのぶんキャッチーなフックとゲスト陣による多彩な色味が加わり、よりマスアピールできる貫禄の内容となりました。その一方で2016年のトランプ当選やブレグジットを踏まえたポリティカルな要素も強く打ち出され、重量級なのは結局相変わらず。

Run The Jewels - Legend Has It (Official Music Video From RTJ3 & Black Panther) - YouTube




17. SlowdiveSlowdive

SLOWDIVE

現在ではシューゲイザー御三家がいずれも復活を遂げていますが、他とはまるで異形と化した My Bloody Valentine や UK ロックの王道を行く Ride と比べると、Slowdive は従来のシューゲイザーのイメージを最も正統な形で踏襲しているように見えます。かつての持ち味をそのままに現代的なブラッシュアップを施し、メロディも実に良質な耽美的轟音ポップソング集。

Slowdive - Sugar for the Pill (Official Video) - YouTube




16. heaven in her arms 「白暈」

白暈 (ハクウン)

ポストロック/ポストメタルへと舵を切り、これまでに無い壮大な世界観とナイーブで切迫した悲壮感を獲得することに成功した3作目。これまでの邪悪なイメージを払拭するようなジャケットの白と青のイメージが、その方向性の転換を綺麗に象徴しています。激情を吐き出すアグレッションの中に美しさが貫かれた、正しく渾身の一発。

heaven in her arms - 月虹と深潭 (Abyss of the moonbow) - YouTube




15. NORIKIYO 「Bouquet」

Bouquet

悲しみがこびり付いたアルバム。大切な人との離別を経験した NORIKIYO が、孤独の侘しさと前に進むための強さを歌う、その歌詞は彼独自の卓越したラップスキルで説得力が押し上げられています。それ以外にもヒップホップへの愛着あるが故の拘りやユーモラスな面も詰め込み、今現在の彼自身をそのまま投影した実にリアルな作品。

【MV】NORIKIYO / 満月 (Full Moon) - YouTube




14. Syd 「Fin」

Fin

スムースであり、セクシーであり、ダークかつ神秘的でもある。歌詞のテーマは楽曲のムードそのままに一夜の情事を切り取ったものから、穏やかな中にも確かに熱い火を感じさせるものまで。それらがダブステップやトラップ通過後の極めて2017年的な R&B チューンとして綺麗に連結されており、その流線形の滑らかさには思わず溜め息が漏れる。

Syd - All About Me (Video) - YouTube




13. Cornelius 「Mellow Waves

Mellow Waves

先行シングル「あなたがいるなら」のイメージを持ってアルバムを聴くと、ほとんどフォークな曲だったりコーネリアスらしいミニマルなエレクトロトラックも兼備されていて、曲調の幅広さが少しばかり予想の斜め上の印象を受けます。ただそれらに共通しているのは表題にもある「メロウ」の質感。このアルバムの世界観をフジロックのステージで体感できたのはラッキーでした。

Cornelius 『いつか / どこか』 Sometime / Someplace - YouTube




12. Björk 「Utopia」

UTOPIA [CD]

前作「Vulnicura」のジャケットでパックリと割れていた胸は心の傷を意味していたようですが、その傷は新たなパートナーとの出逢いによって癒され、「The Gate」という曲があるように心の中への扉となり、今回の優しさに満ちた作品が完成した、という何だかあまりにも出来過ぎな流れ。コンセプトが明確に定められたアルバムはやはり強いです。

björk - the gate - YouTube




11. Kamasi Washington 「Harmony of Difference」

Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)

アルバム表題は異なるメロディ/ハーモニーが重ねられる作曲技法を差すものであり、今作が表現しようとしているテーマでもあります。収録曲「Truth」の MV に映し出される、国籍も人種も性別もまちまちな人々。それらの境界を超えたところに真実があるという、ある種ポリティカルとも言えるメッセージ。美しさと力強さが綺麗に調和した、ポジティブなエナジーに溢れた作品です。

YouTube




10. BAD HOP 「Mobb Life」

Mobb Life

今作の制作にあたり、中心人物の YZERR は「出来る限り日本的な要素を排除したかった」という旨をインタビューで述べていました。US のトレンドを細部まで研究、吸収し、日本語ヒップホップを次のレベルへと押し上げようとする姿勢。そういったある種ストイックな精神があるからこそ、デンジャラスな歌詞の内容も緊張感が一層高まっているのかもしれません。彼らの美学をひしひしと感じました。

BAD HOP / Mobb Life feat. YZERR, Benjazzy & T-Pablow (Official Video) - YouTube




9. gibkiy gibkiy gibkiy 「In incotinence」

In incontinence

最近は Merry Go Round Respects と称して過去曲のリバイバルも演っているようですが、この新作とメリゴの音楽性は一直線に繋がっています。真ならではのおどろおどろしく淫靡な、それでいて何処となくファニーな世界観。それが aie 独自の陰影の深いギターワークや、パワフルなリズム隊の助力を得て2017年度版にアップデート。異形が現代でも異形で在り続けてくれていることの頼もしさといったら。

gibkiy gibkiy gibkiy - 愛という、変態 - YouTube




8. The xx 「I See You」

I See You [輸入盤CD](YTCD161)

冒頭「Dangerous」のホーンには明らかにこれまでの内省的な空気を切り裂くような力強さが満ちてる。もちろん従来の憂鬱なメロウさも完備されてはいますが、それ以上に The xx としての新しさ、殻を破って外に向かおうとする意識が前面に押し出された快作でした。全英1位、全米2位も獲得し、フジロックのステージも実に堂々としたもので、すっかりスタジアムのスケール感が似合うバンドになりましたね。

The xx - I Dare You (Official Music Video) - YouTube




7. ZORN 「柴又日記」

柴又日記 (生産数限定盤)

いきなり「男はつらいよ」のテーマから始まるのが象徴的ですが、彼にとってのリアルとはアウトローでも何でもなく、まさに「日常」なのですね。結婚して子供が生まれ、家族を養っていくというごくごくありふれた一般的な風景。それこそ実はただでは得難い貴重なものなのだという考え。さりげないパンチラインも数多く飛び出し、日本語ヒップホップシーンにおける彼の個性をまざまざと見せつけられました。

【Official Music Video】ZORN / かんおけ [Pro. by O.N.O(THA BLUE HERB)] ℗2017 昭和レコード - YouTube




6. Kendrick Lamar 「DAMN.」

Damn

王者の風格を見せつける「HUMBLE.」も、凄まじいスピードで攻撃性を見せつけてくる「DNA.」も、Rihanna とのコラボレーションで淫靡なムードを醸し出す「LOYALTY.」も、全てがあくまでこの「DAMN.」という多面的集合体の一部分。「弱さと悪意、どちらが正しい?」というテーマの下に彼自身の内面をとことん掘り下げ、結果これまでの作品の中で最もヴァラエティに富み、ともすれば混沌とした様相すら見せる複雑な内容になりました。

Kendrick Lamar - LOYALTY. ft. Rihanna - YouTube




5. Lorde 「Melodrama」

Melodrama

完全に世界を掌握した歌姫ですが、歌の内容自体は実にパーソナルなものなのですね。リード曲「Green Light」を筆頭に、暖かくスウィートなムードに包まれる「The Louvre」、刹那の狂騒が刹那である遣る瀬の無さを描いた「Perfect Places」にしても、歌っていることは決して浮世離れしたものではない、一人の等身大の女性としてリアリティを強く感じるもの。すなわち純粋に高品質なガールズポップということです。

Lorde - Perfect Places - YouTube




4. ENDON 「THROUGH THE MIRROR」

THROUGH THE MIRROR (スルー・ザ・ミラー)

ノイズの持つ可能性は無限大。たとえそこに明確な歌詞が無くとも、その音の密度、暴力性、またはテクスチャーの緻密さから我々は何らかの意図、感情、メッセージを読み取ることができます。それは身も蓋もない言い方をすれば単なる妄想なのですが、このアルバムはそういった妄想を激しく掻き立てる、そしてフィジカルにも強く作用する、ノイズバンドとしての最新型を見事に提示しています。

ENDON "THROUGH THE MIRROR" (OFFICIAL VIDEO) - YouTube




3. Arca 「Arca」

Arca [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (XLCDJ834)

Arca こと Alejandro Ghersi はこれまで音の向こうに姿を隠したミステリアスな存在というイメージがありましたが、ここでの彼は奇抜なボンデージに身を包み、無軌道なエレクトロサウンドを従えて、自らという存在をこれでもかとばかりにアピールしています。単なる歌モノへの路線変更ではない、もっと心の内に滾るマグマのような感情を、あくまでもスムースに、静かに伝えるその様は、どうしても歌わずにはいられないというある種の業のようなものが感じ取られ、その切迫したムードに完全に虜にされてしまいました。

Arca - Reverie - YouTube




2. St. Vincent 「MASSEDUCTION」

MASSEDUCTION [CD] (8-PANEL POSTER)

奇矯なトリックスターがいよいよその本質をエクストリームに剥き出しにしてきた本作。強烈なフェティシズムを見せつけるヴィジュアル・アートワーク、激しさから優しさまでをダイナミックに行き来する楽曲群。それらはストレンジな原色の色味を強調しながらも、実は内に眠る愛憎混濁した歪な感情を表現した、極めて生々しくエモーショナルなもの。トレードマークのギターサウンドこそ後退したものの、そのぶんアクの強いエレクトロサウンドが前面に押し出され、以前とはまた別次元のバロック感へとシフト。結果的に更なる深みへと到達した問題作です。

St. Vincent - "Los Ageless" (Official Video) - YouTube




1. PUNPEE 「MODERN TIMES」

MODERN TIMES

イントロから終幕までが一本のストーリーで繋がれたコンセプチュアルな内容は、彼がいかに一枚の「オリジナルアルバム」を作ることに意識的だったかが汲み取れるし、その流れの中で彼はポップな面もエモーショナルな面もふざけた面も、多様な要素を全て綺麗に詰め込んでる。ゲスト参加も在るべくして在るという感じで、こんなに様々なピースが綺麗に揃った作品というのはそうそうないでしょう。待望のファーストに相応しい、力は抜けてるけど聴き応え抜群の内容でした。すでにヒップホップシーンでは評価の確立されている存在ではありますが、フリースタイルダンジョンとは全く無関係の場所からアルバムをリリースしてオリコン TOP10 に食い込むというのは、ひょっとして本当に日本にもヒップホップの風が吹いてる?時代の変わり目?とか思わされますね。

MODERN TIMES by PUNPEE on Spotify




以上が今年のベスト記事となります。お付き合い頂いた方々に深い感謝を。