小袋成彬 「Piercing」
表題通り「ピアスを開けるみたいなノリ」で制作に臨んだという今作は、昨年の「分離派の夏」とは明らかにモードが切り替わっているのを感じます。前作は彼がこれまで歩んできた人生の中で最もターニングポイントとなった地点を徹底的に掘り下げた、言わば自伝のようなシリアスさ、重たさが印象的でしたが、ここでの彼は打って変わって、ちょうど今現在の気分のみをダイレクトに楽曲の中へ投影しているように見えます。2~3トラックが繋がって1曲を成すという変則的な構成、5lack や Tohji などゲストとのコラボレーション、また時には友達との他愛ない会話が混入するなど、アルバムの流れを作るその手つきは至って軽やかなもの。それは活動拠点をロンドンに移したというのも大きな要因でしょうし、前作で吐き出すべきものを吐き出しきって肩の荷が下りたところもあるかもしれません。何にせよ、とことん内省的だった以前の作風と比べると、彼自身ないしはそれを取り巻くムードの風通しの良さが、音の隙間からはっきりと伝わってくる。それでいて綴る言葉の硬さ、鋭さも失われてはいません。特にクローザー「Gaia」では「かましたる バチバチにな」とまで。
Rating: 8.4/10
DÉ DÉ MOUSE 「Nulife」
- アーティスト:DÉ DÉ MOUSE
- 出版社/メーカー: NOT RECORDS
- 発売日: 2019/12/11
- メディア: CD
DÉ DÉ MOUSE はアルバム毎に異なる趣向を凝らしているのもあってか、どうもクオリティが安定しないなという印象が個人的にはあって、それで今回の新譜に対してはどうかと言うと、何だかまたえらく薄味になったな…という。今作の一番の特徴はラテンフレイヴァー。情熱的に躍動感を煽るボンゴやカウベル、スティールパンの軽快な音色、またハウス調のピアノリフも涼やかな風を吹かせながらダンスグルーヴの熱を一層高めていく。ただそこまでコテコテのラテン感ではなく、あくまでエレクトロニクスの流麗さを際立たせるための装飾に留まり、目新しさとしてはいささか弱い。また彼のトレードマークとも言えるヴォーカルの継ぎ接ぎエディットにしても、今回はあどけない子供の歌声ではなく R&B 曲からのサンプリングが主となり、それがトラックにピッタリ寄り添いすぎて彼独自のクセが抜け落ちてしまっているように思います。この手の歌い上げ系ヴォーカルを弄り倒す手法は James Blake や Burial などもすでに散々やってきてるし、今になって彼がそこへ、しかも至って無難な形で手を出すというのには、やはり首を捻らざるを得ないなと。
Rating: 5.9/10