坂本真綾 「Single Collection+ ニコパチ」 「少年アリス」 「夕凪LOOP」


マーヤ祭りのラスト。これ以降の 「30minutes night flight」 は 【こちら】 、 「かぜよみ」 は 【こちら】 に感想すでにアップ済みです。手抜きですんません。



シングルコレクション ニコパチ

シングルコレクション ニコパチ

2000年〜2003年のシングル曲、サントラ収録曲などをまとめた編集盤第2弾。


前回の 「ハチポチ」 と同様にタイアップ仕事の楽曲がほとんどで、多彩すぎる音楽性はトータリティ度外視のとっ散らかった内容と捉えられるかもしれません。しかし 「ハチポチ」 と明らかに異なる点はマーヤ嬢のヴォーカリストとしての力量の違い、そして菅野先生がマーヤ嬢の嗜好/声質を十分に把握した上で作られた楽曲の相性の良さ、要するにコンビネーションの良さですね。童謡+ミュージカル仕立ての 「夜明けのオクターブ」 、シリアスに疾走する Bjorkドラムンベースヘミソフィア」 、優しく暖かい英詞アコースティックポップ 「ダニエル」 と、曲が変わるたびにジャンルも変わるくらいの勢いで様々な曲調が陳列されているのですが、どの楽曲にも決して無理はなく、むしろ中心にあるメロディの良質さを際立たせており、常に新鮮さと心地良さを感じながら聴き進められる。言わばガールズポップの総合商社。これだけアイディア満載なのに一切のスベりがないと痛快通り越して脱帽ですよ。純粋にメロディの素晴らしさで言えば 「tune the rainbow」 、アレンジの濃さで言えば 「THE GARDEN OF EVERYTHING」 、いやでも全曲素晴らしいな。入口に最適なのはここかも。


Rating: 9.6/10



少年アリス

少年アリス

オリジナルフルレンスとしては2年9ヶ月ぶりの4作目。


まず印象的なのは、全体に通底する凛々しさ、力強さ。今作中でのハイライトとなる 「ソラヲミロ」 「光あれ」 は熟達のバンド陣と弦楽隊による重厚なアレンジと、表現力/説得力を一層増したマーヤ嬢の歌声が、正しく高い空から差す光のように景色を照らし、視界を広げていく。強い風の中でグッと地を踏みしめて前を見据えるような、ヒロイックとも言えるほどの勇壮さ、芯の強さを感じます。相変わらず曲調は多彩であるものの、全体的にはロック色あるいはトラッドフォーク色の強い内容で、タフな躍動や緊張感、また乾いた質感の物悲しさといったムードが前面に出ていますが、その中でメロディや歌唱には従来の瑞々しい清涼感、ポップな風通しの良さも同時に際立っており、変な力みや息苦しさは感じない。濃密とシンプル、切なさと明るさ、優しさと厳しさ、それらが絶妙なバランスの上で繋がり、まるでひとつの壮大なミュージカルを見てるような感覚を覚える。場面によってはやたらノイジーだったりプログレッシブだったりするのに、それらが膨張するギリギリのラインでポップスの範疇に統合されてる様は圧倒的ですらあります。一切の隙が見当たらないキャリア最高傑作。


Rating: 10.0/10



夕凪LOOP(初回限定盤)

夕凪LOOP(初回限定盤)

1年10ヶ月ぶりとなる5作目。


この作品から菅野先生の元を離れ、鈴木祥子浜崎貴司中塚武h-wonder といった様々な作家を起用するようになったわけですが、正直最初はあまり良い印象がなく、久々に聴いた今でもそれは変わらないかなと。というのはやはり 「別の人と組む=今までにないスタイルで驚かせてくれる」 という期待があったからで、確かに 「ハニー・カム」 の4つ打ちや 「冬ですか」 のスカ調は新しい試みですけども、基本的には正統ポップスが主で大きく変わったという印象には届かず。メロディ主体の垢抜けた J-POP という所で敢えて言えば 「Lucy」 に近いかもしれませんが、今までに比べると良くも悪くもアレンジが薄味でやはり感触は違う。良く言えば綺麗に纏められた、悪く言えばクセが無くなって無難に留まった楽曲群。さらに前作の 「少年アリス」 が濃密でスリリングな作風だったのも相まって、どうしても食い足りなさは拭えない。もちろんマーヤ嬢の艶やかに揺れるヴォーカルの魅力はそのままで、メロディの清涼感との相性はバッチリなのですが、やはりそこから一歩踏み出した先を望んでしまうのですね。意欲作ではあるけども、少し複雑な気持ちの残る作品でした。


Rating: 6.8/10



以上で終了。これは俺の勝手な妄想なんですけども、マーヤ嬢は作品のたびに等身大の自分を投影してるんじゃないかなと思ってます。まだデビューしたての雛だった 「グレープフルーツ」 から、思春期モラトリアムな高校生時代の 「DIVE」 、自由でフレッシュな大学生時代の 「Lucy」 、実際にミュージカルにも挑戦したりと自らを鍛えていた 「少年アリス」 と、その時その時の心境が作品にも表れてるような気がする。なので作品を出すたびにひとつ殻を破ったようなイメージがあり、成長をこちらにも実感させてくれる所があったんですよね。その原石を磨いてきた菅野先生との出会いは本当に幸福なものだったよなー。


そんで今回の記事を書くにあたり過去のカタログをパーっと聴き返して、基本的には最初に聴いた時と感想は大きく変わらないわけですが、 「少年アリス」 はちょっと違った。今聴いた方が分かることが多いと言うか、リアルタイムで聴いた時は予想と食い違ってたからか気になる点がないわけじゃなかったんですけど、久々に聴いてみたらもう全曲完璧で本当ビックリしたね。全然鳥肌が治まらなくて正直引いた。いつの間にか俺の中である種の基準みたいなものになってしまってるのかもしれない。どうやら15周年を機にこれら過去作も総リイシューされるようなので、未聴の方はこの機会に是非って感じで。それでは武道館アニヴァーサリーに行かれる方々、健闘を祈ります。


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