SUMMER SONIC 2018 OSAKA 1日目

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行って来ました。フェスに行ったら感想を書く。それが男だ。



KNOX FORTUNE @ MOUNTAIN STAGE

シカゴ出身のシンガーソングライター。正直 Chance the Rapper「All Night」への客演という情報しか仕入れてなくて、とりあえずヒップホップ/ R&B 畑の人だろうと思っていたらそうでもなく、何でも器用に演れるオールラウンドプレイヤーという感じでしたね。R&B があり、軽快なロックンロールがあり、途中では Tears for Fears「Everybody Wants to Rule the World」のカヴァーから前述の「All Night」に繋げるといった試みもあり、このパートが最も盛り上がったハイライトでした。チャノは残念ながら出てこなかったけど。全体的に見るとどういう方向に行きたいのかちょっと見えてこないというのが正直なところでしたが、パーティー気質のエンターテイナーというところで掴みは良かったかなと。


THE ORAL CIGARETTES @ OCEAN STAGE

先日の LUNATIC FEST. にも出演してたし V の者のよしみという感じで見てましたが、まあ売れるべくして売れたバンドだなという感じ。ヒロイックな一挙手一投足であったり、こなれた煽りや真っ直ぐな MC など、完全にロキノンとヴィジュアルの良いとこ取り。ギターのバッキングも同期で鳴らしてたりと普通のバンドが拘りそうなところをサラリと捨てて、あくまでライブを盛り上げることを第一義としたパフォーマーとしての完成度が凄い。のだけど、何だか自分には機能的すぎ、優等生すぎてどうにも味気なく感じてしまった。良くも悪くも日本のロックのガラパゴス化を象徴したようなライブで、今回の自分のモードと違いすぎましたね。


TOM MISCH @ SONIC STAGE

ロンドン出身のシンガーソングライター。音源をザっと試聴した時にはジャズやボサノヴァ、ブルースにエレクトロニカを加味した最新型のラウンジミュージックといった印象だったのですが、今回のライブは生バンド編成で、思った以上にロックバンドとしての肉体性、躍動感が強調されていました。もちろん基本的には落ち着いた哀愁のムードを大切にした演奏で、決して大っぴらに客を煽ったりはしないのですが、演奏の骨組みの強さによってダンサブルな側面が強調され、それと同時にメロディの物悲しさもより味わいを深めていたように思います。途中では姉の Laura Misch をゲストに招いてデュエットとなり、洒脱なムード以上に翳りを帯びた歌の醸し出す情感がさらに前面に押し出された、何とも味わい深い瞬間でした。予想以上に楽しめた。


JORJA SMITH @ SONIC STAGE

上の TOM MISCH もそうでしたが今年のサマソニは若手のピックアップが非常に熱い。彼女もデビュー作「Lost & Found」が充実の傑作で期待もひとしおといったところでしたが、予想通りもしくはそれ以上を行くレベルで歌が巧い。上品なドレスに身を包んでしゃなりしゃなりとした仕草を見せながら、何とも芳醇で美しい、伸びやかで包み込むような歌声をどの曲でも聴かせてくれる。そしてバックバンドの演奏もそれに負けない主張。特にドラムの刻み方が異様な鋭さで、アグレッシブにグルーヴを生み出しながら全体に調和するしなやかさも兼備という、まるで隙のないアンサンブル。特に「Teenage Fantasy」や「Blue Lights」にはドップリ深い哀愁に陶然とした心地になったし、ラスト「On My Mind」はそれまでの流れを急変させるグライムビートで夢から覚めるような鮮烈さだった。歌声が新人離れの凄味を発する一方で MC では「まいど」「おおきに」などの大阪向けサービスも欠かさないという。完璧超人か。


CHANCE THE RAPPER @ OCEAN STAGE

今年の目玉のひとつ。なのですが、まず客入りが厳しかった。そもそも今年のサマソニは海外勢の動員が全体的に厳しめで、一番客が埋まってたのがオーラルと ONE OK ROCK という有様でして、このチャノもメイン級の扱いにも拘らずかなりの逆境を強いられていました。アルバム「Coloring Book」からの楽曲が中心のセットリストということで、コーラス隊を引き連れてゴスペル要素を全開にアピール。パワフルな聖性に満ちた曲の中でチャノのパフォーマンスはやはり力強く、ステージの端から端までを全力で行き来しながら、硬い拳を鋭く振り翳して昂ったエモーションを露わにしていました。しかしながらヒップホップとなると言葉の壁がどうしても分厚くなってしまい、コールアンドレスポンスを促してもなかなか客と上手く噛み合わず、気まずい沈黙が生まれてしまう場面がたびたびあり。チャノはモチベーションを落とさないように努めていたかと思いますが、さすがにガックリと苦笑いを零すこともあった。

それでも中盤以降、荘厳な「All We Got」から盛大に紙テープが舞った代表曲「No Problem」、本日二度目の「All Night」に暖かくソウルフルな歌声が響く「Same Drugs」と、キラーチューンの大盤振る舞いでようやく客の歌声が乗り始め、特に「Same Drugs」でコールアンドレスポンスがようやく成立した時のチャノの嬉しそうなガッツポーズには思わずこちらも感動してしまった。正直途中でブチ切れて帰ってしまってもおかしくないだろうと思うくらいの状況でしたが、最後まで全身全霊でオーディエンスにぶつかろうとする彼の人柄、人間力がありありと表れたパフォーマンスの連続で、個人的には文句なしの内容でした。また戻ってくると言ってくれていたので、それまでにこちらも英語を勉強しておきます。


ST. VINCENT @ SONIC STAGE

Chance the Rapper を最後まで見届けたかったので残念ながら開演には間に合わなかった。しかし会場に入るとその奇妙な光景にすぐさま意識を奪われました。全身赤の際どいボンデージスーツに身を包んだ Annie Clark 、そして横一直線に並んだサポートメンバー達はツナギにラバーマスクを装着したのっぺらぼう、という出で立ちからして明らかに異様なもの。バックの映像も Annie 自身をモチーフにしながら様々な手法で異形のエロティシズム、フェティシズムを表現した強烈なシロモノばかりで、そのシュールかつ前衛的なポップアートにうっかり眩暈を起こしそうになった。メンバーの奇矯な挙動もネジの外れたロボットを模したようなものだったり、人間性というものをあらゆる角度から解体して提示した演出は先のチャノと比べるとまるで真逆。その無機質さにも関わらず「Fear the Future」や「New York」といった楽曲では極めて人間臭い感情の激しい揺れが前面に表れてくるのだから不思議でしょうがない。彼女ならではのブッ飛んだ世界観を体感できました。


PARAMORE @ SONIC STAGE

前回のサマソニで見てから実に9年ぶりとなるパラモア。その間に彼女らはビルボード首位を掻っ攫い、Fall Out Boy 云々をすっかり脱した勝者の風格を身に着けていました。今回はキーボードやパーカッションをサポートメンバーに迎えた7人編成。シンセポップを大々的に取り入れた新譜「After Laughter」に沿う形のセットリストとなり、以前に比べるとポップバンドとしてより一層洗練された面はありますが、それでも彼らの根本は変わっていなかった。音楽的にも過去の「That's What You Get」や「Crushcrushcrush」といったエモ/パンク曲と最近のファンク/ディスコナンバーが違和感なくひとつの線上に共存していることに驚かされましたが、ヴォーカル Hayley Williams はいずれの楽曲においても華奢な体を大きく使ってテンション高く観客をアジテートしており、パンク出身の血気盛んな気質が今でもそのままなことにひどく安心感と感動を覚えました。そもそもバイタリティに溢れた明快なメロディの強さが彼女らの一番の武器であり、それを活かすための手段が経験とともに多様になってきたということで、芯の部分が全くブレてないのだということを実感できました。

そして最も印象的だったのが代表曲「Misery Business」。客の一人を指名してステージに上げ、サビを歌わせるというパフォーマンスだったのですが、指名された女性がもうすっかり感極まっていて、それでも全力で歌っている微笑ましい様子が会場全体のバイブスの高さをハッキリと象徴していたように思います。本当に老若男女が溌剌とした笑顔で盛り上がっていて、一体いつの間にここまで厚いファンベースを日本でも築いていたのだろうと。とてもピースフルな熱気が充満していて、何だかひどく幸福な瞬間を目の当たりにしているような、とても貴重なものに思える70分でした。


ということでベストアクトは Chance the Rapper か Paramore 。決められん。