坂本慎太郎 LIVE2019

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これまでのライブはチケットが取れず、都合がつかず。ようやく今回、ゆらゆら帝国以来、およそ10年ぶりに坂本慎太郎を見ました。




予想よりずっとバンド感がありました。一昨年からライブ活動を再開し、USツアーも敢行しで、現在のメンバー編成での一体感が強化されてきているのだと思いますが、こじんまりした音源テイクが嘘のように、曲が明らかにライブ向き、外向きにビルドアップされていました。牧歌的なメロディの1作目、深く妖しいムードの2作目、シュールさに磨きをかけた3作目という風に、方向性は一貫しながらアルバム毎に微妙に異なるチューンアップが施されてきたソロの楽曲群。それらがスリーピース+管楽器あるいはパーカッションというアンサンブル、キーボードもスティールギターも無しのシンプルさに磨きをかけたリアレンジにより、同列に並べられて連結することで坂本慎太郎ソロワークという確固たるひとつの世界観を形成していました。まったりした曲はさらにまったりして歌声のねちっこさが強調され、ダンサブルな曲はそのグルーヴ感がさらにうねりの深いものに。もしかしたらギターのコード進行にも手が加えられていたかもしれません。各作品からバランスの良い選曲も奏功し、全体に明確なメリハリのついた流れが生まれていて、現在の彼らの充実っぷりが手に取る様に感じられました。


「幽霊の気分で」や「まともがわからない」など、ポップソングライターとしての熟達ぶりを改めて噛み締める場面も多くありましたが、アルバムで個人的に一番好きなのが「ナマで踊ろう」というのもあり、そこからの楽曲がセットリストの中でハイライトを担っていたように思います。「義務のように」のそこはかとない哀愁でユニバースという会場の独特の空気感がさらにディープに煮詰められたように感じ、多彩なパーカッションを駆使しての唯一のアップテンポ曲「あなたもロボットになれる」は目が覚めるようなインパクト。そして表題曲「ナマで踊ろう」のアウトロではギターを大きく掻き鳴らしてサイケデリックな音の層が広がり、これまでロックらしい肉体性を敢えて排除してきた彼からすると意外なほどの迫力。ゆらゆら帝国後期からずっと続けられてきた隙間だらけのサウンドの探求が、大きな周を描いた末に、ここに来て原点へと回帰してきたような。このサイケ感は彼にとってもはや血であり、完全に排除するのはおそらく不可能なのでしょう。その血の濃さを再確認できたことにもグッと来た。


会場の時間の関係だろうか、本編終了後に退場もしないまま「じゃあ今からアンコールやります」でアンコールに入ったのには笑った。Cornelius「未来の人へ」カヴァーでは音源通りゑでゐ鼓雨磨がゲスト参加し、今回のセットリストの中で最もしっとりした憂いを含んだメロディが映え、酔いが回り切った後のチルアウト感ですっかり良い気分に。そのぶん次のラスト「ディスコって」の小気味良さがなんだかえらくハートウォーミングなものに感じられた。酔っぱらっているのか後ろの方の客からは「気持ちええぞー!」とデカい声が飛んで周りの笑いを誘ってましたが、内心はきっとみんな同じだったと思う。たまに思い出したように音源をリリースするだけで一時はほとんど隠居状態となっていたように見えましたが、隠居だなんてとんでもなかった。マイペースながら今でも変化、深化を続けている。その最中の一端を掴み取れた、貴重なライブでした。


セットリスト:
1. 小舟
2. スーパーカルト誕生
3. 死者より
4. 鬼退治
5. べつの星
6. 義務のように
7. 仮面をはずさないで
8. できれば愛を
9. 幽霊の気分で
10. マヌケだね
11. あなたもロボットになれる
12. まともがわからない
13. ナマで踊ろう
14. 君はそう決めた
(アンコール)
15. 未来の人へ
16. ディスコって