2019年間ベストアルバム20選

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ベスト発表するの、かなり勇気いりました。でもこの記事で真実の愛はぼく見つけれると思ってます。読んでくれた皆さんには感謝しかないですね。ほんまに、ありがとう。




20. These New Puritans 「Inside the Rose」

Inside The Rose [Analog]

研ぎ澄まされたエレクトロニクス、優美な広がりを見せるクラシック由来の管弦楽器、それら全てが緊張の糸を強く張る中で、決して派手ではないはずのメロディが、ひどく甘美に、鮮やかに映る。ポストパンクスタイルのデビュー時から携えていたアート志向の美意識、その核の部分へと迫るストイックさはアルバムを発表する毎に増していき、この新作でもその深度を更新することに見事成功しています。全編通じて思わず息を飲むほどの美しさが続き、圧倒されるとは正にこのことかと。

These New Puritans - Beyond Black Suns (Official Video)




19. BAROQUE 「PUER ET PUELLA」

PUER ET PUELLA

渾身、という言葉が良く似合う。L'Arc-en-Ciel 譲りの端正な J-ROCK 感を主軸としつつ、宗教的な清らかさのイメージに寄り添うようにリズム隊は骨格の太さで荘厳な雰囲気を醸し出し、ギターはポストロック由来の包容力に満ちたテクスチャーを広げ、ここぞという場面では情感たっぷりにソロを弾き倒す。そのプレイや歌のひとつひとつがとても丁寧だし、明確に役割分担された各曲の方向性にも、それぞれに確かな信念が感じられる。オサレ系元祖などと前時代の話をしてる場合じゃない。この真摯な姿こそが BAROQUE です。

BAROQUE-NEW ALBUM『PUER ET PUELLA』(2019/7/30 Release) より 「PUER ET PUELLA」




18. Liturgy 「H.A.Q.Q.」

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アルバム表題は Haelegen Above Quality & Quantity の略。そして Haelegen とはバンマス Hunter Hunt-Hendrix の信念体系を差す造語であり、その内容は今作のカヴァーアートで詳細に図示されています。…うーむ、正直自分には難解すぎてその意図を十分には汲み取れない。ただ彼が自身の宗教観や政治観を強固に持ち、その上で必然的にこの音に辿り着いているのだという、揺るぎないポリシーはひしひしと感じられます。ブラックメタル、クラシック、IDM三者が最も暴力的な手法で渾然一体となった、正しく超越の音。

Liturgy - God of Love




17. ドレスコーズ 「ジャズ」

ジャズ【通常盤】

何度聴いてもゾッとするアルバム。コミュニケーションにより熱を生み出すことを辞め、少しずつ緩やかに破滅へと向かって行く世界を描いたとするコンセプチュアルな歌詞は、異国情緒溢れるジプシーフォークの退廃的な味わいとあまりにも合致し過ぎてる。何やら騒々しかったり華やかだったり、しかしその内側は虚無感ばかりがゴロリと横たわり、そこはかとない寒々しさ、怖れのような感覚が付きまとう。この作品のリリース日が令和初日というのも、志磨遼平の中ではしたたかな計算のうちなのかもしれません。

ドレスコーズ “THE END OF THE WORLD PARTY” PART 1




16. 国府達矢 「音の門」

音の門

音の門、すなわち闇。2018年の傑作「ロックブッダ」のリリースに行き着くまでの15年という長い年月、その過程の中で生まれ落ちた数々の負の感情が、まるでドキュメンタリーのような生々しさを持って、至極シンプルな弾き語りスタイルで歌われる。どの曲も聴いていて鳩尾のあたりがキリキリ痛み出しそうな切迫感なのですが、個人的には「逃げて」に一番やられた。もうひとりの自分が己に言い聞かせるように何度も発せられる「にげて」、そして不意を突いて切り込むエレキギターの澄んだ音。下手すれば syrup16g 以上のアレ。

国府達矢 "日捨て" (Official Music Video)




15. 国府達矢 「スラップスティックメロディ」

スラップスティックメロディ

そしてこちらは上記「音の門」とほぼ同じように、「ロックブッダ」の裏側として制作されたスピンオフ的作品。歌詞の面ではやはりヘヴィな心象が目立つけれど、オーソドックスなバンドサウンドによる音の厚み、またなだらかなメロディの暖かみがあり、言葉が鋭く刺さるのではなく、心の琴線にふわりと被さって溶けていくような感覚。もちろん単体で聴いても純粋にメロディの滋味が沁み渡る、けれど「音の門」や「ロックブッダ」と合わせて聴けばそのエモ度合が2乗3乗と跳ね上がること請け合い。音楽は文脈で出来ている。

国府達矢 "青の世界" (Official Music Video)




14. Alcest 「Spiritual Instinct」

Spiritual Instinct [Digipak]

ヘヴィメタルシューゲイザーの融合、即ちブラックゲイズとしての作風を追求し続けてきた彼らの最新ヴァージョン。よりダイレクトで生々しいメタル由来の攻撃性が盛り込まれ、結果的にシューゲイザーの幻惑的な美しさも引き立つというシナジーが理想的な形で発揮されています。2007年の 1st 作から随分と遠いところまで来た気もするし、根本のブレなさに安心する部分もある。螺旋階段を下りながらどんどん深いところまで突き進んでいるような。これこそオリジネイターの凄味というものでしょう。

ALCEST - Sapphire (OFFICIAL MUSIC VIDEO)




13. Blanck Mass 「Animated Violence Mild」

Animated Violence Mild

インダストリアルと EDM 、双方の最も暴力的かつ快楽的な部分のみを抽出して掛け合わせたら、なんだか新種のエピックメタルみたいになってしまったという。しかしノイズというジャンルがこれほどまで壮大な多幸感を生み出せるものなのかと、新たな可能性がここでまたひとつ開拓されたような感動すら覚えます。本隊 Fuck Buttons の頃からずっと磨き続けられてきたノイジシャンとしての手腕が、より一層のキレを持って爆発した毒々エンターテインメント痛快作。聴き終えた後のカタルシス半端ない。

Blanck Mass - House vs. House (Official Audio)




12. 長谷川白紙 「エアにに」

エアにに

改めて聴いても「自由」という印象が先立ちます。実際にどのようなプロセスで作曲されているのかは分かりませんが、中心のメロディだけ決めてのインプロヴィゼーション的な場面も多く見られる。もちろんジャズが素養にある彼にとって、曲を作る上でインプロが大きなウェイトを占めていても不思議ではないし、どの曲も確かな技巧に裏打ちされているので、アヴァンギャルドな作風の中にもひとつの筋が通った自然さを感じます。たおやかなメロディが無数の音の飛礫で加速する、鮮烈すぎな新星の一閃。

長谷川白紙 - あなただけ (Official Music Video)




11. 細野晴臣 「HOCHONO HOUSE」

HOCHONO HOUSE<CD>

オリジナル「HOSONO HOUSE」から全く様変わりしたローファイなエレクトロニクス、曲順はさかさま、歌詞は手直し、「終りの季節」はインスト化。レジェンドやら何やらといった周りの評判など何処吹く風という感じで、サラリと今現在の細野晴臣を出してしまうのもクールな事この上無いですが、それで上がってきた代物がアンビエント感を湛えた現行のオルタナティブ R&B に通じる意匠。明らかにモダンな上に原曲とのハマり具合も綺麗なもので、もう何重にも驚かされる。御年70越えてまだまだ発展途上ですか。




10. 椎名林檎三毒史」

三毒史(通常盤)

手法がオルタナティブ、目的が歌謡曲という椎名林檎のスタイルが、これまでの中で最もゴージャスな形で発揮されたアルバム。多数の男性ヴォーカリストをゲストに招いた構成はさながらふたりのビッグショー状態だし、その他の楽曲でも管弦楽器盛り盛りの絢爛なアレンジ、三毒というコンセプトを持ちながら人生の豊かさを映したようなドラマチックな楽曲群に圧倒されっぱなし。個人的にはやはり櫻井敦司とのコラボレーションの意外さに一番インパクトを受けましたが、全編通して職業作家・椎名林檎に出来る最大限のおもてなしという仕上がりで、改めて彼女の持つ魅力、凄味を実感しました。

椎名林檎 - 鶏と蛇と豚




9. black midi 「Schlagenheim」

Schlagenheim [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (RT0073CDJP)

例えば This HeatGang of FourPublic Image Ltd. など往年のポストパンク勢を聴く時、それらをリアルタイムで通っていない自分はノスタルジーではなく新たな世界を見る時の憧憬を抱いているのですが、デビューしたての彼らに対してもちょうどそれと同じ感情が湧き上がっています。充実した音楽的インプットや卓越した技巧、それらを踏まえながら何よりも表現への衝動を最優先し、まるで一箇所に留まっていられず、生き急ぐようにしてアクロバティックに曲が展開していく。常に破裂ギリギリ一歩手前の緊張感を保ち続ける異様なテンション。自分がロックバンドに求めているのはコレです。

black midi - ducter




8. Thom Yorke 「ANIMA」

ANIMA [輸入盤CD] (XL987CD)

これまでのトムのソロ作は Radiohead 本隊に提出する前のデモ音源みたいなラフさが良くも悪くもありましたが、ここで一気に曲の密度をグッと増してきた感がありますね。またバンド本隊がポストクラシカルな方向に進んでいるのもあって、ソロワークの意義がより一層明確になってると思います。IDMダブステップの理知的エレクトロニクスを消化した神経質なリズム構築、不穏な中に心地良い浮遊感を漂わせるシンセレイヤー、それら全てがトムの柔らかくナイーブなヴォーカルを引き立たせる、強烈な磁場を持ったブラックホールのような歌の数々。

Thom Yorke - Last I Heard (…He Was Circling The Drain)




7. Billie Eilish 「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」

When We All Fall Asleep..

すでに世界中でチャート1位総ナメして天下獲り済みの彼女ですが、こんなイビツなもので天下獲ってしまえるのかという驚きが何度聴いてもあります。シンプルに絞り込まれた音数、その中で異様な存在感を見せるベース音。それと同等に、ビリーの囁くような歌声は ASMR 音響によって嫌に生々しく迫る。曲としての構造はよく聴くとオーソドックスなものかもしれませんが、その挑戦的なサウンドプロダクションが陰鬱で不気味な、ゴス的とも言える曲の世界観をガッチリと強固なものにしてる。この繊細さを内包した鋭さというのは、もしかするといつの時代でも大衆に求められていたものなのかも。

Billie Eilish - bad guy




6. Tyler, the Creator 「IGOR」

Igor [12 inch Analog]

刺々しく、甘美で、圧迫感があり、脆弱でもある。サウンドの面でも歌詞の面でも、そういった多くの層が時には親密に、時には相容れないままで混ざりあり、結果として Tyler というひとつの人間像が浮かび上がってくる。12曲40分というタイトな尺の中で表情は多彩に移り変わり、プロデューサー的な視野の広い目線で多くのゲストが適所に配され、中には山下達郎「FRAGILE」からのフレーズ拝借もあったり。曲飛ばしせずにアルバム1枚を通して聴けという本人のステートメントに頷かざるを得ない、苦さも甘さもより一層深みを増した内容に惚れ惚れとするばかり。

NEW MAGIC WAND




5. THA BLUE HERBTHA BLUE HERB

THA BLUE HERB

TBH に対して何を今更という感じかもしれませんが、リリックがあまりにも壮絶すぎて絶句する。以前よりも直接的、断定的な文体が多くなっているのもあり、一文一文が尋常じゃない重みで圧し掛かってきます。取り上げる対象は最近のラップ事情から現代の政治情勢、己のラッパーとしての矜持、そしていなくなってしまった同胞にまで。過去、現在、未来にかけて、彼らが実際に目で見て肌で感じてきたことのおよそ全てが、静かに語りかけるようにして紡がれる。それは徹底して厳しくもあり、表裏一体の優しさも感じられる。何故彼らが日本語ラップの最高峰として長く名を馳せているか、その何よりの証明。

THA BLUE HERB "ASTRAL WEEKS / THE BEST IS YET TO COME"【OFFICIAL MV】




4. Chelsea Wolfe 「Birth of Violence」

Birth Of Violence (Coloured Vinyl)

テン年代を通じてゴシックフォーク、ダークウェーブ、ドゥームメタルと紆余曲折を経てきた彼女の到達点。全ての楽曲に霞みがかった奥行きがあり、真綿で首を絞めてくるようなメロディのフックがあり、そして背筋を凍らせるほどの只ならぬ瘴気がある。穏やかに爪弾かれるアコギの音色、その裏側に立ち昇る空気感にはこれまでの彼女の経験すべてが濃密に溶け込んでいるようで、その気の発しようには聴いているだけで思わず身を竦めてしまう。物理的には風通しが良くなったけれど、彼女のキャリア中最もヘヴィな作品でもあり、同時に最も高貴な美しさに満ちた作品だと思います。

Chelsea Wolfe "Be All Things" (Official Video)




3. FKA twigs 「MAGDALENE」

Magdalene [解説・歌詞対訳付 / ボーナストラック1曲収録 / ステッカー封入 / 国内盤] (YT191CDJP2)

先行トラック「Cellophane」は単体で聴くよりも、このアルバムの最後として聴く方がその真意を掴み取りやすいと思いました。全てが終わってしまった後の後悔や悲嘆が、至ってシンプル、それ故の純度の高い美しさで彩られたピアノバラード。その結末に至るまでの過程、彼女の内面の移り変わりを最も効果的に、かつディテールの部分まで伝わりやすくするための解答として、今作の曲調の幅広さに辿り着いたのだと思います。以前よりも多彩な装飾を纏うことによって、より内側の深部、核心に迫ろうとする逆説的なプロセス。自身を奥底まで掘り下げて曝け出す時の激しい熱量が、しなやかに磨き込まれたサウンドの裏側からジワジワ伝わってくるよう。

FKA twigs - Cellophane




2. KOHH 「UNTITLED.」

UNTITLED

苛立ちや逡巡を内包した衝動の発露、それがアルバムを重ねる毎に重油の澱みにも似たギトギトっぷりすら見せるようになっていた、そんな彼のピーク更新値がこの新譜。オーケストラを従えた荘厳な「ひとり」の時点で彼が完全にネクストステージに移行しているのを物語っていますが、中盤「Fame」以降はさらに、内省的なダークネスが曲を追うほどにどんどん不穏さを増していき、まるで終わりの見えないトンネルの中へ迷い込んでいるようにも感じられ、そのぶんクローザー「ロープ」の爆発力には何度聴いても圧倒される。自分だけの道を行くということがここまで厳しいものなのか、そしてこの厳しさは死ぬまで絶えず続くのか、答えのない問い掛けをずっと繰り返し続けている、凡庸では居られない人間の痛切な写し鏡。

KOHH「まーしょうがない」




1. THE NOVEMBERS 「ANGELS」

ANGELS

改めて聴いても滅茶苦茶な音像だと思う。歌とノイズギターとエレクトロニクスがほぼ同列で、しかも両者の境目がほとんどない状態にまで滲み、全体が大きなひとつの渦と化しているような状態。その音全体を受け入れ、細部を掻い潜って掴もうとするほどに、その渦の中へ身体が飲み込まれていくような錯覚に陥る。これは彼らのシューゲイザーあるいはポストロックを由来とする轟音への意識の高まりがそうさせたのだと思います。放射される音の享受をひとつの非日常的体験と見なす、彼らの美学がとことんまで突き詰められたプロダクション。実際にライブに行けばその真意をよりはっきりと確認できるはず。もちろんソングライティングの面においても、多岐に渡るインプット、リスペクトの数々を余すことなく凝縮した、現時点での集大成がここに体現されています。混沌を突き詰めたが故の粋。彼らは遂にやりきりました。

▲THE NOVEMBERS「Everything」(OFFICIAL AUDIO) ▲