Ambrose Akinmusire 「on the tender spot of every calloused moment」

On the Tender Spot of..

On the Tender Spot of..

米国オークランド出身のトランペット奏者による、1年8ヶ月ぶり5作目。


アルバム表題をそのまま愚直に訳せば "硬さの中に柔らかさを見出す" ということでしょうが、これは彼のみならず、ジャズのみならず、音楽という表現手法それ自体が掲げるテーゼ、本質そのものだと言えるでしょう。明るい和音の響きに一抹の切なさを見出し、鼓膜に悪影響を及ぼしそうな重低音に安堵感を見出し、ドラムマシンの規則正しいグルーヴに野生の躍動を見出し、果ては無音の中に音を見出す。二律背反や矛盾を串刺しにする大胆さと、角度によっていくらでも表情を変える微妙さ。それらこそが音楽の持つプリミティブな魅力であるはずで、この作品はそういった本質なるものを果敢に追い求める、極めて挑戦的、ミュージシャンとして正義的な内容であると思います。作曲とも即興とも判別のつかない、極めて自由度の高いセッションが全編に渡って展開されており、「Tide of Hyacinth」では収斂と開放を連結するダイナミックさに圧倒され、フュージョン風の「Yessss」では優美さと緊張感の綯交ぜになった空気感が染み入り、「Hooded procession (read the names outloud)」では穏やかなキーボードの音色に怒りや悲しみの投影を見る。果てのない深み。

Rating: 8.1/10



Ambrose Akinmusire - Tide of Hyacinth