FUJI ROCK FESTIVAL '17 3日目

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3日目もほとんど雨でしたが、もうここまで来るとほとんど気にならなくなりましたね。実質晴れ。


THE NOVEMBERS @ WHITE STAGE

昼間の野外にはあまり似合わないノベンバからスタート。前回の出演時には随分と力みが入っていたような印象があったけど、この日は逆に何処かリラックスしたような、いつも通り自然体の余裕を感じました。もちろん自然体とは言っても彼らの鳴らす音はそもそもが緊迫した轟音ではあるのだけど、それを自在に操って見せるくらいの技量、風格が備わったというか。冒頭「美しい火」「風」の優しいメロディと幻惑的なクリーントーン、それと対照的に「鉄の夢」「Blood Music. 1985」での狂気が迸ったディストーション。いずれにしても中低域の音量がふくよかに保たれ、なおかつ爆発的な広がりを持った音作りは彼らの描く世界観を強固なものに仕上げていました。オルタナティブシューゲイザーに造詣の深い彼らだからこそ成し得る、有機的な怪物のようなノイズ。特にラストに披露された「Hallelujah」は、この世の一切合切を燃やし尽くす業火のようなギターサウンドで、完璧に美しいものを見る時のカタルシスとはこういうことなのだろうなと思ったり。


トクマルシューゴ @ WHITE STAGE

フルのバンドセットを見るのは初めてでしたトクマルシューゴ。メンバーが増えると使用楽器が二次関数的に増えるのが彼らのやり方でして、様々なアコースティック楽器に加えて中には子供のおもちゃのような類まで駆使し、インディフォーク/人力トイトロニカの雑多で愉快なポップワールドが展開されていました。個人的に一番驚いたのは中盤の明和電機社長のゲスト参加。彼の SNS をチェックしていなかったもので名前が挙がった時は思わず声が出た。まあ既存のスタイルに囚われず様々な音色を取り入れていくという意味では共通してるかもしれないけど、実際にトクマルのバンドメンバーと並んでみると異物感が凄い(笑)。オタマトーン大活躍してたよ。もちろん実験的な面だけではなく中心のグッドメロディも大きな魅力。特に終盤の「Parachute」「Rum Hee」で生まれる牧歌的な多幸感には深くグッときた。今年見た中では最もフジロックらしいアクトだったかも。あと MC がやたらとハキハキした早口だったけど結構緊張してたのだろうか。もっと飄々とした人だと思ってたので逆に愛着が湧いたというね。


SLOWDIVE @ RED MARQUEE

時間帯丸被りの戸川純 with Vampillia を断腸の思いで諦めて今年初のレッドに来ました。2度目のフジ出演となるスロウダイブ。全体の印象としては前回とさほど変わりはしなかったものの、再結成から場数を踏んでこなれてきたのか、鳴らす音の精度はさらに高まっていたかもしれません。1曲目「Slomo」から彼らのトレードマークでもある濃密なシューゲイザー・ノイズの壁を構築。また「Star Roving」では軽やかな疾走感が心地良く吹き抜け、「Sugar for the Pill」の叙情的なギターフレーズは冷たい水のようにサラリと体に浸透する、といった風にセットリストの中でハイライトとなっていたのは新譜からの曲でした。その一方で「Alison」や「Machine Gun」といった往年の代表曲はオミットされていたのだけど、あくまで現在進行形としてのバンドをアピールするにはその方が誠実だとも言える。何にせよ鋭さや激しさを完全に研磨し、すっかり丸みを帯びた彼らの轟音は圧倒的でありながら大きな包容力を持ち、徹頭徹尾その透明感が保たれていたのだから、さすがオリジネイターは格が違うと言わざるを得ない。先の THE NOVEMBERS に続いて、またも美しさに触れられた貴重な時間でした。


LORDE @ GREEN STAGE

こちらも2度目のフジ出演、すでに全世界をノックアウトしている歌姫 Lorde 。ご本人は黒のシックなドレスに真っ白の大きなスニーカーを合わせるという、ミスマッチなようで何ともクールな着こなし。マニピュレーター2人のみを従えたシンプルなセットは、大きなステージの中で彼女という存在をこの上なく際立たせていました。

セットリストは「Pure Heroine」と「Melodrama」から均等に選曲。前者の曲は音源で聴いた時はまだあどけなさが感じられたのですが、ライブでは現在の彼女の技量によってどちらも等しく、グラマラスでいてエモーショナル、彼女の名の通り実に高貴な雰囲気を纏っていました。歌唱力の高さはもちろんのこと、ステージ上での彼女は端から端までを行き来しながら、常に全身を駆使して表現される、その姿から発せられるオーラの凄味たるや。決まりきった振り付けではなく、まるで歌が彼女自身の身体を突き動かすように、情熱的、衝動的な舞踏を繰り広げる、その一挙手一投足が実に美しく洗練されていて、本物のスター、本物の表現者とはこういうものを言うのだなと、その気迫に満ちたパフォーマンスにすっかり釘付けにされていました。

特にその歌声が響いてきたのは「Melodrama」の楽曲が集中した後半に入ってから。「The Louvre」の柔らかくも直向きに胸を打つ情熱、ステージに腰かけてしっとりと歌われた「Liability」の淡い悲しみ、また「Supercut」や「Perfect Places」のドリーミーな躍動など、もはや全ての曲がハイライトと言っても過言じゃない。その中でも大ラスに満を持して放たれた「Green Light」の爆発力は凄まじいものがあった。まだ20歳にも拘らず、この豊かな生命力はいったい何処から生まれてくるのだろう。圧倒される他にない。

そう言えば開演前には「Running Up That Hill」が流れていたし、彼女を見ていて最初に想起するのはやはり Kate Bush でした。MC で彼女は「自分は魔女だから、こんな森の中にいると奇妙なことが起こりそう」などと不敵なジョークを語っていましたが、あながち嘘でもなかったかも。ただ Kate のエキセントリックで浮世離れした雰囲気の代わりに、彼女が携えているのはある種の生々しい人間味、クールさの内にある血の熱さ。しきりに感謝の言葉を述べ、終盤にはスニーカーを脱ぎ、ステージを降りてクラウドの中へ向かっていくなど、そういった愛らしいところも含めて完璧なポップアイコンでした。


BJÖRK @ GREEN STAGE

これまでにも来日の機会はあったけれど、自分がビョークを見れるのは今回が初めて。ようやくのご対面でした。開演前から大勢の弦楽隊がスタンバイし、すでにステージ上は物々しい雰囲気に包まれていました。

マニピュレーターに Arca を従え、ピンクの奇怪なドレスに身を包んで登場したビョーク。1曲目「Stonemilker」から厳かに鳴り響くストリングス、そして低音の研ぎ澄まされたビートが身体に重く圧し掛かる。音源で聴いた時の魅力がより深く、生々しくビルドアップされている、その音の魔的な魅力がすぐさま苗場の夜を飲み込んでいました。セットリストは「Vulnicura」を中心に各アルバムからバランス良くチョイス。Arca の尽力によるものなのか「Come to Me」や「Wanderlust」のような比較的ポップな曲も、今回は静謐な雰囲気やビートの凄味が強調され、今現在のモードにアップデートされていました。そしてスクリーンには密林の奥地に生きる鳥や虫などの映像がフィーチャーされ、まるで生物の持つ命から発せられる力、その尊さをそのまま音に置き換えたような、神聖な雰囲気にただただ背筋を正されるばかり。それが「Notget」になるとステージ上で激しく火花が散るなどの特効が入り、ほとんどビョークを司祭とする宗教儀式の中に迷い込んだかのような心地に。その強い緊張感は本編最後の「Mutual Core」まで一切途切れることがありませんでした。ビョークビョーク以外の何物でもない、その強烈なオリジナリティを改めてまざまざと見せつけられた。

ただ彼女の世界観にもその緊張から解き放たれる場面はあるもので、お待ちかねといった具合で披露されたアンコールラストの「Hyperballad」は、恒例の花火も盛大に打ち上がり、今年のフジロックを締め括るに相応しい大団円となりました。この光景もフジの名物と言って差し支えないんじゃなかろうか。自分の人生においての願いをひとつ達成できた、記念の瞬間でもありました。


これで今年のフジロックは終了です。ありがとうございました。この日のベストアクトも非常に悩むけれど、Lorde でお願いします。と言うかこの日見たアクトは全員が美しかったよ。