ムック 「新痛絶」 「新葬ラ謳」

新痛絶[完全限定生産盤]

新痛絶[完全限定生産盤]

2001年に発表された1作目の再録盤。


早いもので今年でムック結成から20周年。その間に彼らは決して追い風とは言えないシーンの中をサヴァイブするために、少しずつしなやかに音楽性をシフトさせていきました。このアルバムにベットリと詰め込まれた怒りや悲しみといった負の感情は、現在の彼らからすると随分と距離の遠いもののように感じますが、それでも今作の楽曲は節目節目のライブにおいて披露されたり、「娼婦」などはたびたび再録されたりで、彼らにとっての一番の核の部分は変わらずここに存在しているのだと思います。今回の再録は必要以上にアレンジを捏ね繰り回すことなく、現在の技量、現在の音作りによって正統にビルドアップするという方向性。アンサンブルにおいて特に進化を感じるのはリズム隊の強固さ。中でもグルーヴのうねりがキモとなる「盲目であるが故の疎外感」や、複雑な構成をとった「イタイ手紙」では演奏面の強化によって説得力がグッと増しているように感じます。追加で収録された「五月雨」も非常に収まりが良く、正しく「新」の名に相応しい仕上がり。ただ古参ファンの難癖として、唯一気にかかるのは逹瑯のヴォーカルなのでした。

Rating: 7.4/10


新葬ラ謳[通常盤]

新葬ラ謳[通常盤]

2002年に発表された2作目の再録盤。


こちらも同様に基本的なアレンジはそのままの真っ当な進化で、曲自体の素晴らしさは変わりません。ただやはりここでも逹瑯のヴォーカルは少々異質に聴こえます。以前の彼はヒーカップ唱法と言っていいのだろうか、喉を振り絞って聴き手の鼓膜に引っ搔き傷をつけるような歌い方をずっと続けていました。そのクセの強さは確実に聴く人を選り分けていたとは思いますが、むしろそのヒステリックに激情を伝えるスタイルこそが楽曲の世界観を濃密なものにしていたと自分は感じていて、今回の再録を聴いてもやはりその思いは変わらないなと再確認しました。現在の彼はもちろん技術的には向上しているけれど、歌詞の中に入り込むのではなく一歩引いた場所から俯瞰しているような、悪い言い方をすれば妙にこなれてしまったという印象を受ける。今回の再録はどちらにもオリジナルのリマスター音源が同梱されており、そちらは今聴くと荒削りではありますが、そのぶん自らの表現を世の中に突き付け、深い爪痕を残そうとする気迫があった。それは初期衝動とも言い換えられるもので、さすがにそれをベテランの彼らに求めるのは酷かもしれないけども。

Rating: 7.6/10