FUJI ROCK FESTIVAL '19 1日目

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今年も行ってきました。12回目のフジロック。まさか12回も苗場に来れるとは思わなかったよ。見た順に感想を書きます。




中村佳穂 @ FIELD OF HEAVEN

昨年のアルバム「AINOU」が素晴らしい傑作なのに加え、ライブの評判も前々からえらく高かったので期待値も否応なしに上がってしまっていたのですが、そのハードルをいとも簡単に越えてしまった充実の内容でした。初っ端からこんな良いもの見てしまって大丈夫なのかというくらい。

レミ街メンバー等を擁するサポートバンドを引き連れての中村佳穂は、3年ぶりにフジロック出演を果たした喜びを心の底から放出する勢いで、「GUM」や「アイアム主人公」は心なしか音源よりも躍動感が底上げされているように感じたし、「忘れっぽい天使」のようなしっとりした曲も伸び伸びと羽を広げるような大らかさを感じました。そして MC 中にもその場でメロディを作って次曲に繋げたり、バンド全体で即興セッションに入ったりと、とにかく自由さが際立つ。おそらくジャズの素養が大きいのかと思いますが、頭脳と身体、体全体を使って音楽をやっているという感じで、そのミュージシャンとしてのポテンシャルの高さにはただただ感嘆するしかなかった。そしてそのポテンシャルの現時点での最高到達点が新曲「LINDY」ということでしょう。ファンキーなグルーヴに祭囃子風ニュアンスも取り入れて自由度は弥増すばかり。

最後の MC で彼女は「私の人生に関わってくれてありがとう」と述べていました。これは大袈裟な話ではなく、多くの人間との関わり、コミュニケーションの蓄積があってこそ、この音楽が成り立っているのかなと思います。音楽を通じての感情のキャッチボール、形式に囚われない本質的なコールアンドレスポンスと言うか。音源だけでは掴みきれない彼女の魅力の全貌を、今回のライブでようやく感じ取ることが出来た、何とも幸福な時間でした。




七尾旅人 @ WHITE STAGE

昔から音源はずっとチェックしていたけど、生でライブを見るのはこれが初めての旅人。バックバンドに Kan Sano がキーボードで参加しているのには驚きましたが、内容は「Rollin' Rollin'」「サーカスナイト」など代表曲を交えつつ、最新作「Stray Dogs」でも見せていたフォーク路線。時にはヴォーカルに過剰なエフェクトをかけたりキーボードを乱打したりで大きく音を膨らませる場面もありましたが、基本的にはしっとりと、丁寧に言葉を聴き手に伝える姿勢。もちろんいずれもハートウォーミングかつ切実な楽曲ではあるのですが、前の中村佳穂に比べるといささか地味すぎるきらいがあり、ちょっと入り込みづらかった。ただこの内容を1万人収容のホワイトステージの規模でやれるというのは、やはりフジならではの光景ですよね。




King Gizzard & The Lizard Wizard @ WHITE STAGE

オーストラリアはメルボルン出身の6人組。1年でアルバム5枚を上梓するという異様な多作派、なおかつアルバムを出す毎に方向性がコロコロ変わるという文字通りの変態バンドということで、この日は何が飛び出すやらという感じでしたが、ヴォーカル Stu Mackenzie は Metallica「Kill 'Em All」Tシャツを着用しての気合の入れよう。彼ら基本的にはサイケ/プログレだと認識してたんですけど、完全にメタルバンドと化してました。トリプルギター、ツインドラムで通常よりも出力1.5倍のアグレッションを備え、土臭く荒くれたサウンドで迷いなく猪突突進。これが現在の彼らの最新モードということでしょうが、なんでまた。ただツーバスや速弾きなどテクニック的には申し分ないですが、本チャンのメタルバンドほどマッチョな肉体性があるとまではいかず、その代わりにドラッギーなスクリーン映像の効果もあってか、やはり何処となくサイケ由来のねちっこさ、毒気のようなものが滲み出てるような気もしましたが、フロア前方は完全にモッシュ祭りだったので気のせいかもしれませんね。




Janelle Monae @ GREEN STAGE

ミュージシャンとしても女優としても既に確固たる地位を確立しているということで、もうすっかり貫禄が段違いでした。最新鋭の音響と演奏、本人のズバ抜けた歌唱力に華のあるダンスパフォーマンス、さらにそこへ絢爛なダンサーを従えてのド派手な演出と、もうここがヘッドライナーなのでは?という勢いの最上級アメリカン・エンターテインメント。途中ではあからさまに女性器を模した衣装を交えて女性をポジティブに鼓舞したり、LGBTQ への配慮、多様性の尊重へも言及するなど、もう何から何まで一級の立ち振る舞い。そりゃ玉座にも座るよなという感じで、エンタメとして滅茶苦茶に圧が強い。個人的にはと言うと…何だかいちゃもんみたいになってしまいますが、良くも悪くも彼女言うところの ArchAndroid を体現しすぎと言うか、あまりにも完成され過ぎてて非現実的な、自分と激しく距離のあるものを見ているような心地になってしまったり。圧倒されたのは確かですが。




ELLEGARDEN @ GREEN STAGE

来場客のTシャツ着用率を見ても明らかでしょうが、この日のチケットが完売した要因の半分以上はこのバンドにあります。彼らに関しては最初に聴いたのが「ELEVEN FIRE CRACKERS」で、手を出すのがかなり出遅れていたのでさほど深い思い入れがあるというわけではなく、ただただ純粋に良い曲を書く良質なバンドだという捉え方でいたつもりでした。自分としては。にも拘らず、演奏が始まると次第に感極まって半ベソかいてしまった。オールタイムベストと言って良いセットリストで、「Space Sonic」も「風の日」も「Missing」も演奏した。他のアクトに比べると音の薄さは気にならないと言えば嘘になるけれど、さして大きな問題ではない。そのまるで人を選ばないメロディと言葉がザクザク突き刺さってきて、どうにもジーンときてしまった。エルレ好きは好きだったけどここまでだったかと自分に驚いた。ただタイムテーブルの関係で最後の「Make A Wish」や「スターフィッシュ」は聴けませんでした。そこは来月の RSR で取り返します。最後方まで取りこぼしなく盛り上がっていた満員のグリーン、そこに集まった人が皆同じような気持ちを抱えてるのだろうと考えると、こんなエモいことないな。




Mitski @ RED MARQUEE

実は2月の単独公演も見に行ってるのですが、その時よりも今回の方が音響の良さ、会場の広さが彼女に適していて充実した内容だと思いました。楽曲自体はオルタナティブ・インディロック、そこに昨年の傑作「Be the Cowboy」ではラウンジ/シティポップ要素も加味してさらにカラフルな表情を見せるというもの。ただそれらを普通にさらりと演奏して終了することもできたでしょうが、彼女はそんなもので終わらせない。曲に合わせて全身を使ってのコンテンポラリーダンスを披露したり、ステージ上に用意された椅子/テーブルの上でストリッパーのごとく両脚を大胆にくねらせたりと、体を張った奇矯なパフォーマンスの連続。それが見る側に捻れた違和感を与えると同時に、こちらの予想の斜め上の方向から楽曲の魅力を拡張しているように思います。よくよく考えれば彼女は曲調以上に、歌詞に置いてはどうしても拭い切れない孤独や、自身のアイデンティティに対する疑問など「他者との相容れなさ」をテーマにすることが多いので、その整理のつかない気持ちをパフォーマンスに反映すると自然とこうなる、ということかもしれません。そういう意味ではこのダンスによる違和感があるからこそ、彼女独特の魅力というものが完成に至るのだと思います。今年のツアーを最後に彼女は一旦ライブ活動を休止するとのことで、最初のピリオドを打つ前に見ることが出来て良かったです。




Thom Yorke Tomorrow's Modern Boxes @ WHITE STAGE

今年の目玉のひとつ。ソロ名義としては今回のライブが初対面となったのですが、結論を先に言えば、もちろん良い、良いのだけど、思ったほどは刺さらなかったという気持ち。何故そうだったのかを終演後もずっとぼんやり考えていたのですが、すぐに理由として挙がるのは遅い時間帯で体力的な疲労の蓄積が大きかったのと、この日はまあまあ雨が続いていて精神的にもキツくなっていたのと、あとは自分の頭が完全に新作の「ANIMA」モードだったので、予想外の過去曲の多さで少し肩透かしを食らっていた、という辺りでしょうか。映像と音響の相乗効果という点ではこれ以上のものは無かったと思う、ただ正直自分はトムのソロ 1st と 2nd についてはそこまで良い印象を持ってなくて、そもそも曲自体の取っ掛かりが弱くて入り込みにくく、ついていくのがだんだんある種の修練のように感じられてしまうという、何だか身も蓋も無いな。

しかしながら今回改めて強く実感したのはトムのフロントマンとしてのカリスマ性でした。エレクトロニックに徹した楽曲でも黙々とつまみをいじるなどということはせず、ステージ前まで乗り出して痙攣のように踊り出したり、鋭くベースを打ち鳴らしたり、左右に腕を激しく振って客に促したり、そういったハイテンションな挙動が全く曲のカラーに似合ってないのがまたトムらしいなと思うのですが、ともかくジッとしていられない、ある種ロックスターとしての性分が滲み出てしまう、この人柄こそがトムなのですね。音楽的な知識/素養は人一倍あるでしょうが、それを踏まえた上でかなり動物的な反射神経を頼りに曲を作っているような気がする。だからステージングもああいう激しいものになるのではないかなと。もう一度腰を据えてからライブに臨みたいんですけど、さすがに無理だな。何だか勿体ないことをしてしまった気になった。




ということで、この日のベストアクトは中村佳穂でお願いします。