FUJI ROCK FESTIVAL '19 3日目

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フジロック3日目です。前の日終わってから泥のように寝たのでそれなりに回復しました。



スカート @ RED MARQUEE

この日はスロースターターで行くつもりだったけど、早起きしてしまったからせっかくなので見た。結果的にはとても良かったです。昨日の荒天から打って変わって綺麗に晴れてくれたので、このバンドが鳴らす一切の衒いのない軽快なシティポップ/インディロックが何とも爽やかに映る。澤部渡は朝イチから上々の客入りを見てひどく嬉しそうに、朗らかで伸び伸びとした歌唱をテンポ良く聴かせてくれる。パーカッションも加えての躍動感が音源よりもさらに爽やかさを助長していたように思います。その中で「CALL」だけは少し影の部分が濃いように見えて、セットリストの中で良いアクセントになってた。この曲演ってくれて嬉しかったな。早起きは三文の徳とはよく言ったもんだ。




ドミコ @ RED MARQUEE

新譜「Nice Body?」が快作だった2人組。ただライブではベースレスの音の薄さを逆手に取る、それこそ The White Stripes 直系のスタイルで行くのかなと思っていたら、ギターはルーパーを使って随所で音を重ねたりと、意外にも真っ当に曲を再現していて、この「真っ当」というのがこのバンドの場合プラスなのかマイナスなのか、自分はややマイナスなのではという風に感じました。あまりデュオならではの特性を活かしてるとも言い難いし、仮にここにもうひとりギターを一人入れたりベースを入れたりしても、メンバー達の心情的には変化はあるでしょうが、結果として出てくる音にはそこまで大差がないような気がする。ちょっと若くしてこなれ過ぎてるように思いました。




never young beach @ GREEN STAGE

この時間帯ヒマだし休憩がてらネバヤンでも見るか…ということで後方の芝生で椅子に腰かけてカレー食いながら見てたんですけど、まあ音とロケーションの合うこと合うこと。元々フォークロックを身上としてる彼らですが、ライブだと溌剌さが一気に増して何とも若々しい勢い。その程良い熱量がようやく晴れた野外の下では非常に心地良い風のようでした。ようやくフジロックに来たという実感が湧いてきた。もう3日目だよ。




Hiatus Kaiyote @ GREEN STAGE

オーストラリアの4人組。まずヴォーカル Nai Palm のヴィジュアルに慄く。ピンクのミッキーイヤーハット、そのミッキーの耳にはキューピーのピアス、そして足元はプリンブーツ。ドラァグクイーンでもここまでの出で立ちなかなかないでしょ。プリンブーツ10万円するらしいし。その自由過ぎるヴィジュアルが示すように、楽曲の方もかなりの自由度で暴れ回っていました。R&B 由来のクールかつスウィートなメロディを立てつつ、楽器隊は低音を重視した立体的な音響と、涼し気な様子で変拍子満載のバカテクを展開。またスタイリッシュな音像ばかりではなくベースはいきなり強烈な歪みを噛ますなど、スリリングとリラクシンの狭間を自由自在に飛び回り、歌モノとして破綻しそうなところをウルトラCの離れ業でギリギリ繋ぎ止めるという、オルタナティブ R&B の最右翼たる存在感をバリバリに発揮していました。聴いてて気持ち良ことこの上なかった。




Hyukoh @ WHITE STAGE

韓国の4人組。韓国の音楽と言われると K-POP しか浮かんで来ない自分にとって、韓国のロックとはどんなものかちょっと想像がつかなかったのですが、実際に聴いてみると、これは果たして韓国という土地柄なのか、それとも彼ら自身が生み出した個性なのか、ともあれロックはロックなのだけど、その中に絶妙な「訛り」を感じさせると言うか、今までに味わったことのない感覚が潜んでいるように思いました。シンガロングを促すスケール豊かなメロディがあったり、重心を落としたダンサブルなグルーヴがあったり、一言で言えば確実にロックなのですけど、そこから何かしらのジャンルに属しているとか、具体的な影響元というのを見通すことができない。しかし確実に中毒性はある。巷では「韓国の Suchmos」などと形容されているようですが、個人的にはあまりアテにならない例えだと思った。彼ら、ひいては韓国のロックシーンに興味を掻き立てられた瞬間でした。




KOHH @ WHITE STAGE

前回のフジ初出演の時に見て完全に虜にされてしまった KOHH 。その時は「飛行機」や「結局地元」など KOHH のスタイルを分かりやすくプレゼンするという内容でしたが、今回は全くモードが違っていました。新譜「UNTITLED.」に準じた、ダークでシリアス、強烈にヘヴィなセットリストで攻めの姿勢を一層強化。「ひとつ」「Leave Me Alone」「I'm Gone」といった内省的な楽曲、そこに「Drugs」やアカペラでの「Hate Me」も加わり、徹底して辛辣に、人は何処までいっても独りだという事実を突きつけ、一切の迷いを断ち切って自由を求めようとする、KOHH の生き様が痛々しい程の凄味を持って表現されていました。一応ヒップホップという体裁を取ってはいるものの、何だかライブというよりもミュージカルの独白シーンを見ているような心地になった。彼にとってリアルな哲学、刹那的な激情が迸る、その凄まじい迫力に自然と騒ぐことを忘れて呆然と立ち尽くしてしまった。そのぶんラストに放たれた「ロープ」の爆発力も鬼気迫るものがありました。この人はいったい何処までの深みを目指すのか、何だか末恐ろしくなってきた。

ただひとつ、ステージ演出には Rhizomatiks が加わり、リアルタイムで動画にエフェクトをかけていくという試みが為されていましたが、カメラが KOHH の周りを衛星のように徘徊するのは完全に蛇足だったと思う。ゲストを完全に排して KOHH ひとりの存在感を際立たせる内容だったので、もっとシンプルなステージで良かったのではと。




平沢進+会人 (EJIN) @ RED MARQUEE

今年の目玉その2。フジロックに平沢師匠が出るというだけで相当面白かったのに、開演前のセッティングを見ただけでもう笑うしかなかった。過去のライブ動画でも見られたレーザーハープやテスラコイルを持ち込んだ絵面は、後にも先にも師匠のライブでしかお目にかかれることはないでしょう。この時点ですでに眼福と言える。

そして開演。転換時には照明のチェックばかりで全然音出してないけど大丈夫か?と思ってたけどあまり大丈夫でもなかった(苦笑)。両サイドの会人のギターやヴォーカルが他の音に埋もれて聴き取りづらく、代わりに師匠のギターは馬鹿デカいという。レッドマーキー自体は音響の良さに定評があるので、この辺はフェス慣れしてなさが災いしたかと思いましたが、それを差し引いても十分お釣りの来るパフォーマンスでした。正直自分は P-MODEL は聴いてたけどソロ作品はほぼ未開拓で、今回のセトリだと分かったのは「フ・ル・ヘッ・ヘッ・ヘッ」と映画「パプリカ」で聴いてた「白虎野」くらいでした(「ジャングルベッド」は分からなかった)が、そんなにわか者でも十分圧倒するほどのド派手な演出と楽曲のアクの濃さ。一貫して直線的なノリでビートを振り落としながら、アジアンテイストと SF を掛け合わせた胡散臭さ全開の世界観がブワッと広がり、また現地まで駆け付けた精鋭たる馬の骨たちの全力のレスポンスもあって、本当に新手の宗教の儀式に迷い込んだ心地になった。

このフジロックの中では間違いなく異色、と言うかこの空間は何処に持ち込んだとしても異色でしかない。機材、演出、楽曲含めて今現在のヒラサワスタイルを余すことなく詰め込んだ、初見にも古参にも充実の内容だっただろうと思います。かつての筋肉少女帯聖飢魔Ⅱもそうだったけど、夏フェスとはおよそ結びつかなさそうな個性が夏フェスの空気を一気に塗り替えていく、その瞬間に居合わせるというのは凄く感動的な体験ですよね。




The Cure @ GREEN STAGE

今年の大目玉。ていうか今年何のためにフジに来たかって半分以上はキュアーのためですよ。2007年の時も2013年の時も諸事情で見逃さざるを得なかった。ようやく念願叶っての初対面です。

結論から言うと最高以外の何物でもなかった。ベーシスト Simon Gallup が急遽来日出来なくなったのは残念でしたが、代わりに息子の Eden Gallup が参加という、それはそれでスペシャルな編成。1曲目「Plainsong」を披露した時点で今のバンドが非常に充実した状態であることがすぐに分かりました。リズム隊の硬さがアンサンブル全体を引き締めつつ、幻惑的な美しさを湛えたギターサウンド、そして昔から全く色褪せることのない Robert Smith のナイーブかつ奔放な歌声が、ひどく瑞々しく響いてくる。80年代に最盛期を迎えていたであろうゴシック・ニューウェーブの煌めきが、もう3周ほど時代の廻ったこの2019年において、今なお健在な姿を保っていることに舌を巻くばかりでした。タイトなグルーヴで夜の淵に引きずり込むような緊張感を見せた「A Night Like This」や「Burn」、対照的にこれぞキュアーと言える甘酸っぱく弾けたポップネスの「In Between Days」や「Just Like Heaven」、それらが光と影のように交差して繊細かつ壮大なキュアーの世界観を構築していく。懐かしさはあるけれど全く古びてはいない、むしろ国内外問わず全方位的に影響を与えている事実を踏まえても、今こそ聴くべき、見るべきバンドであるという現役感をまざまざと見せつけられて、感動以外の言葉が見つかりませんでした。

そしてアンコールは完全にファンサービス。繰り出される楽曲がことごとく名曲で途中から笑うしか出来なくなってきた。軽快に跳ねるキュートさがとても活動歴40年の超大御所とは思えない「The Caterpillar」、晴れやかな多幸感が苗場全体を包んだ「Friday I'm in Love」、そして永遠の名曲「Boys Don't Cry」。どうしても聴きたい、これだけは外さないでくれという曲は全て演奏してくれた。ロバートはステージの端から端までをとぼとぼと歩き、注意深く観客を見つめては微笑んで手を振り、時にはおどけて踊って見せたりと、今回のライブをマイペースに、心から楽しんでいるように見えた。これで自分にとっての大きな夢が最良の形で叶いました。もう何も言う事はありません。




ということでベストアクトは当然 The Cure です。何だかんだで今年も楽しませてもらいました。